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 雪の降った夜の道路は、やはり渋滞していた。  ラジオなら交通情報が分かると思ったが、ニュースの続報が流れてきたらと考えると、怖くて聞けなかった。それでも何か音が欲しくて、CDの再生ボタンを押した。  BLACK SABBATHの「HEAVEN AND HELL」が途中から流れた。  踊り子のために自分を犠牲にして血を流せ、そんな歌詞が後半にあったことを思い出しながら、ひたすら前の車のテールランプに付いて行った。  天国と地獄は紙一重だと告げる赤に、僕は囲まれていた。  病院に着いたのは八時過ぎだった。  雪はすっかり止んでいた。  地面のあちこちで光る雪はきれいなはずなのに、今は鬱陶しいものでしかなかった。  夜間入口を探して僕は歩き回った。  凍った歩道に時折足を滑らせながら、やっと見つけた頼りない光へ僕は入って行った。      *  夜間の受付で説明を聞き、茜の母親の待つ三階の待合室へ向かった。  母親の隣には茜の姉も座っていた。  待合室は、必要最低限の灯りだけが残されていたため薄暗かった。  大学生の姉は、茜がそのまま大きくなったような優しい顔立ちをしていた。  初めて会ったが、一目で姉妹だと分かるほど二人はよく似ていた。  母親は、電話で話した時よりも少しは落ち着いてきたように見えた。  しかし、まだ手術が終わっていないことを教えてくれたのは、姉のほうだった。  母親は、隣にいる娘の手をずっと握っていた。  詳しく聞くことは失礼だろうと思い、僕は叱られる子どものように、じっと座って母親が話し始めるのを待った。 「あの子、先生に電話をかけようとしていたんです」  母親が、一人分空けて座っていた僕のほうを向いて言った。 「茜は、大事そうにぎゅっとスマホを握っていたそうです。先ほど受け取ったスマホを見ると、学校にかけようとしていた表示が残されていました。仕事中だと私は電話に出られないから、きっと先生と話をしたくて……」  そう言って母親はまたうつむいた。 「そうだったんですか……」
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