この夜、僕は生かされた。

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「太田先生、疲れた目をしてますよ。これでも飲んで頑張りましょう」  翌朝、職員室で隣の席の坂本先生に声をかけられた。よほどひどい顔をしていたのだろう。机の引き出しから栄養ドリンクを取り出して、僕に手渡してくれた。 「すいません、ありがとうございます」  早く飲みなさい、という感じでずっと見つめられた僕は、普段は全く飲まない栄養ドリンクを一気に流し込んだ。 「仕事で大変なことがあったら、手伝うからね。一人で抱え込んじゃだめよ」  仕事の悩みのほうがどれだけ楽だろう。そう思いながら、 「はい」 と気のない返事をして、僕はクラスへ向かう準備をした。 「さあ、今日も期末テストだから、子どもたちに気合入れないとね」  坂本先生は、三人の息子を持つ肝っ玉母ちゃんらしく、風を切るように自分のクラスへ向かって行った。  僕は、その息子のような気持ちで、生徒用の笑顔を作りながら後を追った。      *  教室の中は、テスト最終日でもいつもどおり賑やかだった。  明るい生徒が多いこのクラスの雰囲気は嫌いではなかった。  でも、明良が死んだことを知る人がいないこの場所は、担任しているクラスのはずなのに、どこか世界から外れているような気がして、足元がおぼつかなかった。  意を決して、 「おはよう」 と教室に入ると、生徒たちはみんな自分の席に座り始めた。朝の会を始めるための自然な流れが、ふと気になった。  規則的な机の並びが、飛行機の座席を思い起こさせ、目の奥に痛みを覚えた。  目の前にいる全員が、いつか永遠にいなくなる人間なのだと思うと、どうしようもない脱力感に襲われた。 「先生、目の下にくまが出来てるよ。あれ~っ、夜遊びしちゃだめだぞっ」  窓側の一番前に座っている、クラス一おしゃべりな茜が、早速僕の変化を感じ取って話しかけてきた。 「飲みすぎちゃだめだよ」 「飲酒運転じゃねー?」 「彼女か、彼女?」 「今日、テストじゃなくて休みにしてあげてもいいけどー」    次々とあちこちから声が上がる。  あぁ、いつもの日常がある。  軽く息を吐いて、足に少しずつ力が戻るのを感じ、僕はふざけた顔でいつもの台詞を口にした。 「へい~、へいっ」 「出たーっ、先生のいつものー」
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