この夜、僕は生かされた。

6/8

24人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
 八時半を過ぎたころ、坂本先生の丸付けは終了した。  ふーっと息を吐き、坂本先生は、 「まずまずね」 と今回のテストの結果を評価した。 「じゃあ、先に帰るわね」 「お子さんたちは、何か食べてるんですか?」 「今日は丸付けがあるから、旦那に夕食を頼んだのよ」 「旦那さん、料理も得意なんですか?」 「うちの旦那、パーフェクトだから」  「パ」をわざと強調して、坂本先生は首を軽く振りながら笑った。 「太田先生も早くいい人見つけなさいよ。ちゃんと食べてね」  そう言って、机の引き出しから飴やらクッキーやらをごそっと掴んでは僕の机に置き、 「お先します。頑張ってね」 と帰って行った。  熱いお茶を飲む休憩を挟みながら、一組から始めた丸付けは、十時半を過ぎてついに四組まで来た。  自分のクラスということもあり、もらったお菓子を口に入れて、もう一度切れかかった集中力を奮い立たせた。  三組までの丸付けで、生徒たちの記述式の解答パターンもほぼ出揃い、思ったよりも悩まずに進めることができた。  どの生徒も前回より理解度が上がっていて、赤ペンは踊るように円を描いた。  残り数枚というところで、「石川茜」という名前を見つけた。  窓側の席まで来たな、もう少しだ。  茜の解答用紙は、彼女の頑張りが本当に伝わって来るものだった。  語句の意味も、例文作りも、三十字以内で理由を述べる解答も、しっかり授業を聞いて、復習してきたことが分かる非の打ちどころのない答えだった。  八十八点。  前回から二十点以上伸びている。  他の生徒たちも、授業で学んだことを何とか答えようという姿勢が見え、学年平均は前回より四点ほど上がっていた。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加