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全クラスの丸付けを終えて壁の時計を見ると、十一時半を回ったところだった。
夢中で作業していて気付かなかったが、顔を上げると職員室の前方に、同じバドミントン部の顧問で三年生の理科を教えている和泉先生がまだ残っていた。
「太田先生、やっと終わったみたいだね」
和泉先生は、初任として来た僕に昨年度からいろいろとアドバイスしてくれる、頼りになる先輩だ。
バドミントンの経験のなかった僕が副顧問になっても、嫌な顔ひとつせず、裏表のない本当に尊敬できる先生だった。どうやら仕事の遅い僕を待ってくれていたようだった。
「和泉先生、すいません。もしかして、残ってくれていたんですね……」
「教員二年目を一人残しておけないだろう。どうせ俺は俺でやることいっぱいあるからな」
「ありがとうございます。すいません、もう帰れますので」
「そうか。じゃあ俺は校舎を回ってくるから、太田先生は職員室を閉めておいてくれ」
「はい」
最後のほうに帰ることが増えてきた僕は、学校の施錠にすっかり慣れていた。
二人の帰り支度は、思いのほかスムーズに終わった。
*
挨拶を交わして、それぞれの車に乗り込んだ。
僕の家は仙台市内にあり、県南のこの中学校からはおよそ一時間といったところだった。
日付が変わってから家に着くのは久し振りだなと思いながら、僕はエンジンをかけた。
田んぼだらけの田舎らしい一本道を走っていると、単調でついつい眠くなってしまう。
そうならないために、大好きなBLACK SABBATHのCDをいつもより音量を上げて聞いた。
ヘヴィ・メタルが好きなことは、親友以外には言わないようになっていた。
相手の反応が分かり切っているからだ。
「ヘビメタ? 太田君はもの静かなのに……意外」
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