この夜、僕は生かされた。

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 蔵が立ち並ぶ、昔ながらの町並みで有名な村田町を走っていた。  点滅した信号がいくつも続いていて、世界には暗い闇と赤の二つしかないように思えた。  瞬きするたびに、何時間も握っていた赤ペンで描かれた丸が、視界に現れた。  長々と続く直線の信号をやり過ごし、あと残り一つというところで、急激な睡魔に襲われた。  そう言えば、昨日の夜はトイレに座ったまま一睡もしなかったな、と遠い日のように思い出し、僕は疲労という言い訳に従順に目を閉じた。  急に街灯が少なくなる丁字路。  真っすぐ進めばそこは壁しかなかった。  そこに辿り着く前に、僕の瞼に黒でも赤でもない光が突き刺さった。  今まで感じたことのない光へ、僕は目を開けた。そして一瞬で悟った。  狼だ――。  中学生の時に初めて見たニホンオオカミの剥製と、薄暗がりの中に佇む四本足の存在を、何度も何度も頭の中で見比べて重ね合わせる。  テレビや写真で見た外国の狼とは大きさも形も違うが、一目見てそれは、狸でも狐でも犬でもないと分かる神々しさがあった。  威厳に満ちた、誰も寄せ付けないような鋭い眼差し。  しかし、そこから放たれる金色とも白銀ともいえる光はどこか懐かしく、冷たさと温かさの入り混じったものだった。  体長、体形、体色、回想、比較、断定……。  一瞬のうちに、何年分もの思考を巡らせたような感覚が、全身を覆い尽くす。  僕は間一髪でハンドルを左に切っていた。そんな反射神経を持ち合わせてはいないはずなのに……。  この夜、僕は生かされた。
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