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「間違ってたらごめんね。霧島くんって、もしかして経堂に住んでる?」
「いえ、いまは成城ッス。でも小学生まで経堂に住んでいました」
洋平が顔を強ばらせたのがわかった
「もしかして、お母さんの名前は霧島美央…さん?」
「あ、はい。え?うちの母のこと知ってるんスか?」
「え?そーなんスか?」
「知らなかった」
松山と成は、素直に驚いている
一番驚いたのは、尋ねた洋平自身だった
ずっと虚空に宙ぶらりんのままだった謎が、いま、細い糸を伝って目の前に降りてきた気がした
16年、忘れかけていたのに
自分でも、なぜあの時のことがこんなに気になるのか、わからなかった
別の後遺症かな
洋平の口許が緩んだ
「…いや、お会いしたことはないんだよ。名前だけね」
「あー、料理本とかに時々出てるから、それスかね?」
成は横目でずっと真仁を見ていた
本当の真仁は、こんなに素直であどけない
成はそれを知っている
だから好きになった
恋愛が絡まなければ、真仁は成が好きな真仁でいてくれる
だから成には踏み出せない
好きな真仁が壊れてしまうかもしれないから
好かれてなくはないと思うが、おそらく恋愛のソレじゃないことは、成にもわかっていた
だから見せてくれる素顔
(ジレンマだあ)
成は急に涙が溢れてきそうになって、ぐっとこらえた
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