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「そういえば、俺の母子手帳ってある?」
昌孝と美央が、同時に真仁を見た
「何?急に」
「学校で持ってこいって」
「何に使うの?」
「あー、家庭科。育児の勉強やってんだよ、いま」
成の話をそのまま使った、口から出任せだった
「ふーん、ちょっと待ってて」
美央が席を立った
「母子手帳とか、懐かしいな」
昌孝が目を細めて言った
「親父も見たことあるの?」
「あるよ。だってお前が病気になって、病院に連れて行くときは必ず持ってくんだぜ?昔は美央の方が忙しかったから、よく俺も病院に連れていったよ」
美央は真仁を産んだあとパートで勤めていたお菓子やさんの工場を辞め、調理師の学校に通い始めた
「へえ~知らなかった」
「俺も知らなかったけど、お前を育てて初めて知った」
アルコールが入ったからか、久々の家族団らんだからか、父親はご機嫌なようだ
「俺は、自分がこんなに父親としてちゃんとできるとは思わなかったよ」
真仁を見ながらニコニコ笑った
「あったよ。懐かしい」
美央が母子手帳とアルバムを手に戻ってきた
「ずっと使うわけじゃないんだ?」
「小学生くらいまでかな?」
美央から渡された母子手帳をめくってみる
妊娠中の記録や、出産時の様子、産まれてからの成長の記録ーー
病院が記載する欄もあるし、母親が書く欄もある
母親が記載する欄には、小さな字がびっしりと書き込まれていた
「借りていい?」
「どうぞ」
「これ、かわいいなあ」
真仁が母子手帳を見ている間、昌孝はアルバムを見ていた
「何これ?」
真仁が覗き込むと
「これが真仁」
美央が指差したのは、セピア色の感熱紙の写真だった
真ん中に、団子虫のように丸まった赤ちゃんが写っている
「お腹の中にいた頃のエコー写真ね。こんなによく撮れてるのがあったのね」
真仁は、初めて見たその写真に不思議な暖かさを感じた
それは本当に赤ちゃんが丸まって寝ていて、お腹のなかとは思えないほど鮮明だった
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