16歳3か月

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「そういえば、俺の母子手帳ってある?」 昌孝と美央が、同時に真仁を見た 「何?急に」 「学校で持ってこいって」 「何に使うの?」 「あー、家庭科。育児の勉強やってんだよ、いま」 成の話をそのまま使った、口から出任せだった 「ふーん、ちょっと待ってて」 美央が席を立った 「母子手帳とか、懐かしいな」 昌孝が目を細めて言った 「親父も見たことあるの?」 「あるよ。だってお前が病気になって、病院に連れて行くときは必ず持ってくんだぜ?昔は美央の方が忙しかったから、よく俺も病院に連れていったよ」 美央は真仁を産んだあとパートで勤めていたお菓子やさんの工場を辞め、調理師の学校に通い始めた 「へえ~知らなかった」 「俺も知らなかったけど、お前を育てて初めて知った」 アルコールが入ったからか、久々の家族団らんだからか、父親はご機嫌なようだ 「俺は、自分がこんなに父親としてちゃんとできるとは思わなかったよ」 真仁を見ながらニコニコ笑った 「あったよ。懐かしい」 美央が母子手帳とアルバムを手に戻ってきた 「ずっと使うわけじゃないんだ?」 「小学生くらいまでかな?」 美央から渡された母子手帳をめくってみる 妊娠中の記録や、出産時の様子、産まれてからの成長の記録ーー 病院が記載する欄もあるし、母親が書く欄もある 母親が記載する欄には、小さな字がびっしりと書き込まれていた 「借りていい?」 「どうぞ」 「これ、かわいいなあ」 真仁が母子手帳を見ている間、昌孝はアルバムを見ていた 「何これ?」 真仁が覗き込むと 「これが真仁」 美央が指差したのは、セピア色の感熱紙の写真だった 真ん中に、団子虫のように丸まった赤ちゃんが写っている 「お腹の中にいた頃のエコー写真ね。こんなによく撮れてるのがあったのね」 真仁は、初めて見たその写真に不思議な暖かさを感じた それは本当に赤ちゃんが丸まって寝ていて、お腹のなかとは思えないほど鮮明だった
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