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次の日は、朝早くからオリエンテーリングのハイキングだった
地図係の松山が
「じゃあ、B班出発!」
と掛け声を掛けた
富士山の麓のハイキングコースは、基本は未舗装の林道を延々と進む
B班の行きの目的地は双子山というところに設定してあった
出発地から約3時間の行程である
途中の分岐ポイントにそれぞれ先生が立っていてチェックをくれるのだが、最低5つ以上のチェックをもらうことになっている
最初は賑やかに喋りながら歩いていたメンバーも、2時間以上も歩き続けると無口になり、スピードにもばらつきが出てくる
心配していた帰宅部の高塚と夢は、意外にもハイペースだった
真仁が夢と並んだ
「結構体力あるんだな」
「ライブは体力勝負だからね」
「ライブもやってるんだ」
「高校に入ってからね」
「今度行っていい??どこでやってるの?」
「主にシモキタかな」
二人とも息は上がっていたが、なんとか会話ができた
「でもさ、高校は親の希望って言ってたじゃん?親はバンドには反対しなかったの?」
真仁は、以前話を聞いたときから疑問に思っていたことを、二人きりの機会に直接聞いてみた
「うちは学歴主義だからね」
夢が苦笑いした
「大学さえいいとこ出れば何にも言われないよ。変わってるかな?」
「うちの学校だと結構いるかもだけど…」
「霧島くんちは違うの?」
真仁は両親の顔を思い浮かべた
自分の好きなことを、好きなようにやってる親たちである
自己実現は自分でして、子供は子供と割りきっている
というか、自分の仕事に夢中でそれどころではない
「うちは…ないかなあ」
夢は普段は見せない大人びた表情でくすりと笑って
「そんな感じがするよ」
「そう?」
「うん、うらやましい。健全な家族だよ」
真仁の心にさざ波が立った気がした
恐る恐る聞いてみる
「大塚のところは違うの?」
「私は養子だから…」
夢がまた苦笑いして言った
霧島は思わず夢の横顔を見つめた
「前は違う中高一貫校にいたんだけど、養子だってことがバレていじめられて、公立中に転校したの」
それで納得がいった
学歴優先のわりに、中学受験でなく、高校からの編入組の理由
「学校行きたくないって言ったときの条件が、前の学校以上の偏差値の高校に入ることだったから…普通、いじめられて泣いてる子供にそんなこと言う?本当の子供だったらどうだったんだろう、と考えることはあるよ」
突然の告白に、夢が伝えたいことがわからなかった
同情を引きたい?強がりなのか?それとも言い訳?自己正当化?
真仁は混乱して、言葉が出なかった
「それ、俺に言っちゃって平気なのかよ」
やっと絞り出した言葉がこれで、自分が情けなくなった
「大丈夫。私はもう負けない」
自分の生き方を見つけた人間は強いということだけが、真仁の頭に刻み付けられた
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