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成は秀才だ
部活での活躍はほとんどないが、熱心に部活に参加するから先輩たちからは可愛がられ、後輩からも慕われている
勉強も怠らない
どうしたらこんなに真面目な人間が出来上がるのか、真仁は不思議でならない
「やっぱりそうだよな」
真仁は朝のHRの前に、成に血液型の仕組みを確認した
「どうしたの?真仁が私に勉強のこと聞くなんて。でも血液型は高校じゃやらないよ」
「わーってる。お前は親の血液型知ってる?」
「父親がAで、母親がOだったかな?弟たちもO」
「あー、双子、元気?」
「元気だよ」
成には2歳下に双子の弟がいるのだ
真仁とは、中学のときにバレー部で先輩後輩だった
「なぜか真仁に憧れてるのよねえ」
「そうなの?」
「最近はそうでもないけど、うちらが引退したときはめちゃくちゃへこんでたよ」
「知らなかった」
「あんた、基本的に人に興味ないもんね」
「そんなことない…え?ある?」
「どうだか」
成はクスクスと笑った
成の家はお好み焼き屋だ
他にも都内で飲食店を数店舗を経営していると聞いたことがある
私立の中高一環校だけあって、生徒たちは金持ちが多い
「そういえば、お前んちのお好み焼き食ったことねえなあ」
「中学のバレー部で来たことなかったっけ?弟の友達はよく部活帰りに来るよ」
下北沢駅にある第一号店は自宅も兼ねていると聞いたことがある
「俺も部活の連中誘って食いに行っていい?」
「え、それはヤダ」
さすがに大人数で来られるのは気恥ずかしかった
商売人の娘だから、気にすることなんてないとわかっているが
「じゃあ松山くらいにしとくか」
「そうして」
※※※※※※※※※※
明日からGWという日に、真仁は松山を誘って成の家のお好み焼き屋に行くことになった
GWが明ければ中間テスト、そのあとは2泊3日の課外研修が待っている
「どうせ俺らはGW中も部活だもんなあ」
午後5時の開店直後だというのに、あっという間に席がうまっていく
学生や家族連れが目立つ
店はアットホームな雰囲気の店だった
「でも午前中の日もあるじゃん!遊びにいこうぜ」
先に運ばれてきた飲み物を飲みながら松山が言った
「いいよ。どこ行く?」
「ゲーセンとかバッセンとか?」
「えーどうせならTDLにしようよ」
「半日だぞ?!」
松山と成が、楽しそうに喋ってる光景を見るのが好きだ
「成、ごめんね、バタバタしてて」
フロアを仕切っていた女性が声をかけてきた
「あ、うん、ごめんね。忙しい時間帯に」
「大丈夫よ。ごめんなさいね、挨拶が遅れて。成の母です」
成の母は小柄で、弾けるような笑顔がかわいらしい女性だった
成によく似ている
「クラスの友達」
「松山です」
「霧島です」
「二人とも男バレなの」
成の母はニコニコと笑って
「そうなのね。あんまりお構いできないけど、遠慮せずにゆっくりしていってね」
そう言うと、別の客に呼ばれて、慌ただしく去っていった
運ばれてきたミックス玉を、松山が苦心しながら作っている
「私やろうか?」
「いや、デートとかでできたらかっこよくない?」
「練習台かよ」
真仁が笑った
「おまちどお!」
店員が、片手にもんじゃ焼きの素を持って現れた
「え、頼んでないッスけど…」
松山が告げると、
「サービスだよ。いつも成がお世話になってるからね」
「ありがと、父さん」
真仁と松山がら成と店員を見比べた
「え?父さん?!」
「父さんです」
成の父親は、普段は他の店舗を行ったり来たりしているが、今日はたまたまこの店にいたようで、
「父さんがこっちにいるなんて珍しい」
「お前が友達連れてくる方が珍しいだろ」
息子たちとは違い、娘は恥ずかしがって店に友達を連れて来ない
成の父親は、娘が連れてきた2人の男子高校生を見比べた
奥に座っている子は、今時のイケメン。背も高そうだ
父親が来ても動じず、かといって意識し過ぎてそっけなくするわけでも、へつらうわけでもない
肝が座っているのか、ドライなのか、はたまた人、というか、大人に慣れているのか―
一方、手前でお好み焼きを焼いてる子は、父親と聞いて明らかに動揺しているが、その反応が素直で好感が持てる
明るくて面白そうな子だ
人懐こそうな笑顔がいい
成の彼氏にはこういう子が望ましい―ー
「お父さんガタイいいっすね」
松山が言った
手前の子は、思ったことがすぐに口から出てしまうタイプでもあるらしい
「元は警官でね」
「え?!それで今はお好み焼き屋なんですか?」
「うん、そう。それで大成功」
父親は豪快に笑った
「それじゃあね、えーと」
「松山くんに、霧島くんだよ」
父親は二人の顔を交互にみると、
「ごゆっくり」
と言って厨房に戻っていった
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