367人が本棚に入れています
本棚に追加
「いただきます」
手を合わせてそう言うと、郁人も同じように手を合わせる。一口かじるとウインナーはできたてで温かく、キャベツにもちゃんと味付けがされていて美味い。
「うま」
「ほんと? 嬉しい。もっと凝ったのも作りたいんだけど」
「別に、美味けりゃなんでもいい」
「ほんと、全ってそういうとこずぼらだよね」
「なんでもいいとは言ってないぞ。美味くないと」
「ハハッ、そうだよね」
郁人は楽しそうだ。そのことに今日もホッとする。少しだけ、踏み込んでみてもいいだろうか。
「郁さ。昔、俺んちの子になりたいって言ってたの覚えてるか?」
夢の話。夢を見て思い出したあの時の事を切り出してみる。郁人の表情がピクリと動き、すぐさま取り繕うように笑顔になったのを見逃さなかった。
「そんな事、言ったっけ?」
「言ったよ。忘れたのか」
「子どもの時の事でしょ」
いつの間に、そんな風に誤魔化すのがうまくなったんだ。取り繕ってなんでもない風に見せているだけだって、長年一緒にいる俺にはわかってしまう。
でも、踏み込んだ手前、ここで止められなかった。
最初のコメントを投稿しよう!