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「俺んちの子になるかっていったら、どうする?」
あの時も、考えなかったわけじゃない。あんな風に泣かれて、本気で考えた。自分が郁人を引き取って育てること。でも、結局切り出すことができないまま今まで来てしまったのだ。今みたいな時折面倒見てくれる近所のお兄ちゃんっていう立場ではなく、保護者という立場になって、本当にうまくいくのか。思っている以上に大変で、責任も重く子育てなんてしたことのない俺には荷が重いんじゃないか。郁人にとっても、よくないんじゃないか。そんなことばかり考えて結局手を伸ばせなかった。
だからこうして、冗談めかして聞く小心者の自分が少し情けない。
「ならないよ」
郁人から発せられたはっきりとした答えに、目を瞠る。
「全と、親子にはならない」
強い意志を感じるその言葉に、情けなくも傷ついている自分がいる。当然だ。十四年もずっと一緒にいて、今まで一度もそんな風に手を差し伸べなかった。一番気楽でいいポジションにいて、気楽な関係に甘んじていた俺なんかに、頼りたいとか家族になりたいとか、そんな風に思うわけない。
でも、少しだけ期待していたんだ。俺に甘えてくれる郁人が、毎日のように家に入り浸って、会いたがる郁人が、少しでも俺と家族になりたいって思ってくれてるんじゃないかって。親とまではいかなくても、兄として慕ってくれているんじゃないかって。
「ま、そうだよな。俺とお前じゃ親子にしては歳が近すぎるしな。独身だし」
気楽な感じに聞こえるように笑いながらそう言って、残りのウインナーサンドを頬張った。
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