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 全がいればいい。全だけいてくれたらいい。ただ、それだけだった。世界を広げるつもりなんてなかった。全がそう望むから少しだけと足を踏み入れただけだった。  でもね。その先の未来に見えた世界は、本当に見違えるようで。 「このチーズケーキ、本当に美味しいわ。ほら郁、食べてみて」 「ん。ほんとだ。美味しい」  優しくて暖かい家族がいて、信頼できる仲間がいて。愛すべき人が側にいる。今のこの世界は、全が作ってくれた、俺の世界。  モノクロだった世界に、鮮やかな色がついた時、俺は、今、生きているのだと胸を張って言える。 「お母さん」 「なぁに?」 「俺ね、今、すごく幸せなんだ」  しみじみと、そう感じる。  全がいて、お父さんとお母さんがいて。そして、宮、生田、柿崎や職場の仲間がいて、そして、遠く離れた場所で頑張っている哲也や、今でも連絡を取り合っている翔もいて。  働いていることも、生きていることも、楽しいと思える今があって。 「幸せで、怖いくらい」 「もっと、幸せになったっていいのよ。郁は、今までずっと頑張ってきたんだから。当然の今よ」  頑張ってきたのだろうか。なにもかも諦めて、必要ないって決めつけて。そうやって生きてきた俺に、全が教えてくれた未来。全がいたから、こうやって俺は今笑っていられる。
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