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 いつだって、誰かの、全の、『特別』になりたかった。誰にとっても特別なんかじゃない俺が、誰かの特別になれたなら、もっと自分を、好きになれる気がした。生きていてもいいんだって思える気がした。 「明日は、全も帰ってくるし、一緒に美味しいもの作りましょうか」 「うん」  与えられたもの、そのすべてにちゃんとお返しができているだろうか。俺も誰かに、与えられる人になりたい。 「全とは、うまくいってるの?」 「うん。全はいつだって優しいから。喧嘩にもならない。俺が一方的に文句言ってるだけ」 「言いたいことはちゃんと言いなさいね。言わないとわからないことだってあるんだから」 「うん。そうする」  大人になった今でも、時折全は俺の事を子ども扱いしてくる。それに不服を唱えたところで、全にあしらわれるだけ。でも、時々昔みたいに頭を撫でられると嬉しいって思う自分もどうかと思うのだ。
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