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「寂しかったの」
「ん。郁が足りないくらいには」
ああ、なんて愛しいのだろうか。
この人を好きになってよかった。この人に出会えてよかった。
「俺ね、全の特別に、なりたかったんだよ」
思わず、ずっと思ってたことを口走っていた。抱きしめていた全の身体が離れて、全が俺の顔を見下ろす。
「なに言ってんの。お前は最初から、俺の特別だっただろ」
思いがけず涙が流れた。
「――うん」
ただ、頷いて全の胸に顔を埋める。
「弟みたいだった時も、恋人だった時も、こうして夫婦になった今も、俺にとって郁は、特別だよ」
欲しいものをくれるんだ、全は。いつだって、俺の欲しいものを。
惜しげもなく愛を、注いでくれる。
「俺にとっても、全は・・・・・・特別だから」
「当然だろ」
ポンポンと頭を撫でてくれるその手は、あの頃と同じように優しくて、温かかった。
END
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