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「郁、学校遅れるぞ」
リビングのソファの上でだらけている制服姿の高峰郁人に声をかけながら自分の準備を進める。
郁人は怠そうに返事をしながらも動き出そうとしない。
「今日はお前、施設の方に帰れよ」
「え、なんで」
朝のニュース番組をつけていたテレビをリモコンで消しながら言うと、案の定不服そうな顔と声がこちらに向けられる。
「毎日毎日、遅くまで出歩いてたら印象悪いだろ」
「遅くまでって門限守ってるし、出歩いてるわけじゃないじゃん」
「同じようなもんだろ」
ほら、さっさとたて、といつまでも動き出さない郁人を急かすように立たせると玄関に押していく。鞄を持たせ、自分の鞄も忘れずに待つと、靴を履き玄関を出た。
すっかりこれが、毎朝の光景となってしまってるんだから、困ったものだ。
郁人は、近くの児童養護施設で暮らす高校二年生の十六歳だ。俺は、30歳のサラリーマンで、郁人とは血縁関係もなにもない赤の他人だったりする。
そんな郁人が毎朝のように俺のアパートに上がり込み、学校帰りに立ち寄るようになったのは、今から十年程前、郁人がまだ六歳の小学一年の頃だった。
施設を抜け出していた郁人を保護したのが始まりで、いつしか頻繁に訪ねてくるようになった。最初は追い返したり施設に送り届けたりしていたのだが、いつの間にかこうして入り浸るようになってしまった。
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