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「あ、おかえりー」  仕事を終え、ぐったりとしながらアパートに辿りつくと、玄関前に郁人が座り込んで待っていた。こんなところで待つなと何回言ったところで聞くつもりがない。はぁ、と溜息を一つ吐きながら玄関の鍵を開ける。 「熱中症になんだろ。もうだいぶ暑くなってきてんだから」 「ちゃんと、少しは時間つぶしてから来てるって」 「友だちと遊んだりとか、いいのか」 「・・・・・・別に、全が気にするとこじゃないでしょ」  郁人が学校の事とか、自分の事を自分からあれこれと話すことはない。聞いても、こうやってはぐらかされるばかり。あまりうまくいっていないのか。俺に話すつもりがないのか。 「な、全。今日は何食いたい?」 「んー、さっぱりしたもの」 「もうすでに夏バテ? 早くない? じゃあ、冷やし中華とか?」  昼間に真壁が食べていたコンビニの冷やし中華を思い出し、それいいな、と頷く。郁人はニカッと笑って、冷蔵庫の中を覗くと、買い物行ってくると張り切っていった。
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