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「金。ちゃんと二人分買って来いよ。夕飯いらないって言って来たんだろ」 「うん!」  屈託のない無邪気な笑顔。この笑顔を見ると、哀しいかな、全部許してしまいそうになるのだからしょうがない。  郁人は料理がうまい。施設でも、自立のためと少しずつ料理を習っているようだが、元々そういうのが好きな様で、うちを訪ねては器用な作業であれこれとレパートリーを増やしていっていた。今ではほとんどの料理をテキパキとレシピもみずに作ることができるのではないだろうか。  一方俺には料理の才能はからっきしで、大学の頃から一人暮らしをしているが、もっぱら惣菜やらコンビニやら、外食に助けられて生きてきた。  郁人が高校にあがって、夜が以前よりも自由になってからは郁人が張り切って俺の分まで作ってくれるから、最近は郁人の手作りばかりだ。  郁人が戻ってくる前に着替えとシャワーを済ませた。Tシャツと短パンというラフな格好になると、ホッと一息つく。スーツは俺にとって鎧のようなものだ。ピシッと背筋が伸び緊張感に包まれる。だから家に帰るとさっさと脱ぎたくなる。  冷蔵庫からビールを取り出そうとして手を止める。風呂上りの一杯。グイッと喉に流し込むビールはたまらない。夏場なんて最高だ。が、それも郁人の存在があると気が引ける。  郁人は未成年だ。ビールを勧めるわけは決してないが、目の前で飲んで興味をもたれるのもよくないだろう。大人の俺が側にいることで、郁人になにか悪影響を与えるわけにはいかない。  郁人の事を、家族同然、弟のように思っていたとしても、現実は郁人は他人で、郁人の未来に責任をもてるわけでもないのだから。
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