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第9章
私が高校に入学する前の三月、十五歳の春。
ママが家からいなくなった。
「葵ちゃん、ママがいないのよ」
朝起きて一階に降りて行ったら、おばあちゃんが動揺した顔で私に言った。
通う予定の高校の制服や学校で使う物全てを揃えて、後は入学式の日を待っているだけの日々を過ごしていた。
中学を卒業した後、私は友達と遊んだり家で怠惰に過ごしたりと、のんびりできるこの時期を満喫していた。
あと一週間で入学式、という平日の朝、遅くに起きていったら家の空気がおかしい。
パパは慌てていて、ママの実家や知り合いに電話している。
おばあちゃんは、ただただ狼狽えている。
私の顔を見るとすぐ駆け寄ってきて、事情を話す。
私は一気に目が覚めた。
確かに玄関を見ると、ママがよく履いていた靴がない。
げた箱を開けると、僅かにあったはずのママの靴も全部なかった。
私はなす術もなく、しばらくリビングのソファーでテレビを眺めた。
いつも通りのニュースキャスターに、いつも通りの情報番組コーナー、いつも通りのお天気お姉さん。
いつもと違うのは、この家の中にママがいない事だけ。
こんな状況で、何を目にしても頭に入ってこない。
私はママがいつも使っていた部屋に入った。
ここに入るのは久しぶりだ。
子供の頃はここでママと寝ていたが、私は中学に入る前に自分の部屋にベットを置く事にしたので、この部屋はママ一人で使っていた。
ママの荷物は綺麗になくなっている。
感心するくらい。
確か細かい引き出しの付いたタンス、ベットサイドにも小さなテーブルがあったはずだ。
子供の頃に見た記憶を手繰り寄せて、あったはずの物を思い出した。
私が好きだった、シンプルな白いドレッサーもない。
寝室に残されたベットの上には、一枚の書き置きがあったようだ。
朝、おばあちゃんが手にしている紙切れを私が目にすると、おばあちゃんは慌てて後ろ手に隠した。
私がそっと紙を手に取ろうとすると、おばあちゃんは諦めて見せてくれた。
『お世話になりました』
ママがこの家で過ごした年月は、この一言で終わったのだ。
ママは家族や子供を捨てたの?
いなくなったと聞くと、そう思う人もいるかもしれない。
でも私はそんなふうに思わなかった。
実際にママがいなくなったのを見て、戸惑ったし、悲しかったし、辛かった。
私に黙って出て行った事に対して、だんだん怒りの気持ちも湧いてくる。
でも、空っぽのクローゼットを見て、真っ先にこう思った。
ああ、やっぱり。
いつかママがこの家を出て行くんじゃないかと、私は心のどこかで思っていたのだ。
小学校の四年生の頃、友達の家でお泊り会があった。
同じクラスで普段仲良くしている子が、よく何人か集めてお泊り会をしていて、私は初めてそこに混ぜてもらった。
今まで行きたい、とママに言っても「向こうにご迷惑だから」と行かせてもらえなかったのだ。
やっと夏休みに一度だけ許可が出て、行ける事になった。
友達の家まで送ってもらって着くと、ママは手土産を友達のお母さんに渡し、しきりに頭を下げて帰って行く。
お泊り会は私を入れて四人いて、お昼からみんなで遊んだり宿題をしたりした。
広いおうちで、可愛い大きな犬が一匹いる。
犬も人が多い事ではしゃいでいるようで、賑やかな一日だった。
夜はケータリングの食事や、持ち寄った物をみんなで食べた。
「みんな明日まで、ゆっくりしてってね」
友達のお母さんはそう言うと、少し離れた場所にある大きなソファで、友達のお父さんと並んで座った。
向こうはビールやおつまみが置いてあり、二人で映画を見るようだ。
海外のコメディ系の映画なのか、二人で字幕を見て笑っている。
僅かに聞こえてくる会話は、友達同士のように親密で温かい。
お母さんは時々、お父さんの肩に頭を乗せてもたれ掛かる。
子供は子供同士で食べたり飲んだりして盛り上がっていたが、私は視界の端で二人を見て、少し動揺した。
お父さんとお母さんがあんなふうに?並んで座って、寄り添っている。
家では見ない光景だった。
私は二人が目を合わせて微笑み合う瞬間を見てしまい、間近で恋人同士を見ているようで、どきどきした。
夜は広い部屋で、お客さん用の布団を借りて寝る。
まだ修学旅行に行く前だったので、この四人で集まって寝るなんて初めてだ。
学校のクラスメイトの噂話で盛り上がって、みんなまだ寝ない空気が漂い続ける。
私はお泊り会に呼んでくれた友達に、
「お父さんとお母さん、仲良すぎない?」
と言った。
「え、そう?普通だよ。いつもあんな感じ」
友達は何ともなしに言う。
すると別の友達が言った。
「うちは普段仲良いけどさ、喧嘩すると三日くらい口効かないよ。私が代わりに用事の伝え合いしないといけないから、超めんどくさい」
みんなで笑う。
喧嘩?
そういえばうちのパパとママは喧嘩なんてしない。
いつも波のない湖みたいに、静かな自分の家。
私は以前から、両親の間には壁みたいなものがあり、その壁は時間が経つ程どんどん高くなっていくような雰囲気を感じとっていた。
パパとママは仲良くしない。
争わないし、傷付け合わない。
お互いを労らないし、関心も持たない。
愛しあってないんだ。
私はそれを悲しいとも思わなかった。それが当たり前になっていたからだ。
家にいる時のママの目には、私しか映っていない。
そう思う事が時々あった。
四人で囲む食卓も、会話はほぼ私とだけ。
私だけはママに愛されている。
子供の頃から当たり前のように受けていた、ママの愛情。
思春期に入ると、あれこれ言われるのがうんざりする事もあったけれど、ママが私の事をいつも考えてくれているのは分かっていた。
家からいなくなっても、私の事を考えてくれている。
その自信だけはあったけど、そこにママの姿がないのも事実だった。
高校の入学式の日、パパは急きょ休みをとって一緒に行くと言った。
本当はママと二人で行く予定だったのに。
そういえば、ママは入学式に着ていくスーツを用意していなかったかもしれない。
中学校の入学式に行く前には、このスーツ、どう?と言って私に見せてくれたのを思い出した。
今年に入ってから、夕食の時に私の入学式の話をしていた時だ。
「百合さん、入学式は着物着たらどうかしら?私のを着てもいいと思うの、なかなか着る機会もないし」
おばあちゃんにそう言われて、微妙な顔をしていたママを思い出す。
昔、パパの入学式や卒業式に着たという、おばあちゃんの嫁入り道具の着物。
独特の防虫剤の匂いがする。
くすんだ色の古臭い着物なんか、ママには似合わない。
そう思ったけど、私は黙っていた。
新しい制服に袖を通して、鏡の前に立つ。
中学校はセーラー服だったけど、高校はブレザーだ。
ブレザーを買いに行った時、ママは真っ赤なリボンを見てしきりに可愛いと言っていた。
私は何だかコスプレの制服みたいだと思ったが、実際着るとそうでもなかった。
「可愛い。私もこんなの着たかったな」
鏡越しにママが言いそうな事を考える。
「葵。支度出来たなら、もう行こう。遅れたら駄目だ」
実際に聞こえてきたのは、パパが私を急かす声だ。
私はため息をついて部屋を出た。
おばあちゃんは私の顔を見て少し心配そうな感じだったので、私は元気良く
「行ってきます」
と言い、入学式に行った。
入学して二ヶ月経った頃、六月に誕生日を迎えて私は十六歳になった。
高校は中学が同じだった子もいるし、別の中学だった子とも仲良くなった。
友達が増えて、学校は楽しい。
ただ家に帰ると、ママがいなくなってから荒み始めた部屋を見ないわけにはいかない。
ゴミ出しや掃除も出来ていない。
食材の補充も、誰もやらなかった。
パパは外で食事を済ませる事が多くなり、おばあちゃんも簡単な物で済ませたり、食事を食べる回数を減らす日が多くなってきていた。
これを期に、私は自炊を始める事にした。
パパが食費として幾らか置いていってくれるようになったので、学校帰りにスーパーに行って食材を買う。
平日は簡単なメニューから、土日に時間がある時はちょっと手が掛かるメニューまで、私は徐々に料理のレパートリーを増やしていった。
洗濯や掃除も自分でやらざるを得ないので、手際良くこなせる方法を編み出していく。
半年経った頃には、すっかり家事炊事に慣れてきていた。
やがて秋が過ぎ、冬がやってくる。
私は自分で衣替えを済ませ、薄手の服は少しずつ片付けていった。
今年の夏買った、流行りのシフォンスカート。
柔らかい生地なので履き心地はいいが、さらさらと滑るので畳みにくい。
どうやったら綺麗に仕舞える?
ママがいたら何気なく聞きたい事も、聞く相手がいない。
私は軽くハンガーにスカートを引っ掛けると、クローゼットの隅に仕舞った。
年末年始はあっという間に過ぎていく。
クリスマスやお正月は友達と賑やかに過ごしたが、家の中はいつも通り静かだった。
ここだけ世の中から隔離されてるみたいに、ひんやり冷たい。
私は家にいるとそんな感覚になった。
高校に入って初めての冬休みが終わると、年が明けてからの学校が始まる。
朝、分厚いコートを着て、マフラーをぐるぐる巻きにして学校に行った。
髪の毛が冷たい空気を含んで、少し涙目になりつつ学校に向かう。
私はママがいなくなってから、家にいるのがあまり好きじゃなくなって、今日も早めに学校に着いてしまった。
電気が付いていない教室に行くと、誰もいない。
まだ暖房も付いていなくて寒かった。
私はコートを着たまま、教室の暖房を付けて自分の席に座る。
窓際じゃないから隙間風がなくて良かった。
私は温かくなる頬を感じながら、図書室で借りた本を読んで時間を潰す。
教室に入って来た一人を、私は目の端で捉えた。
「おはよう」
私は本から視線を外さずに言い、入って来た子を見る。
双子の吉川さんだ。
別のクラスにもう一人、吉川くんという子がいて双子のお兄さんらしい。
二人とも小さな動物を思わせる可愛い顔をしていて、そっくりだ。
お互いの教室を行き来するくらい仲が良い双子なので、目立っていた。
「おはよう」
吉川さんもそう言って、自分の席に行く。
あまり話した事がないので、二人きりになって少し緊張する。
私は何か喋った方がいいかな、と思いつつも、本を読み続けた。
「中森さん」
吉川さんに名前を呼ばれて顔を上げる。
私が少し驚いた顔をしたのを見て、彼女は優しく笑うと白い封筒を差し出した。
「これ。頼まれたんだけど、後で読んで」
私は封筒を受け取る。
「何だろう、手紙?」
私は厚みを確かめて、吉川さんに聞いた。
「さぁ、中身は見てないから分からない。私のお母さんから、中森さんに渡してって頼まれたの」
吉川さんはそう答えると、「じゃあね」と言って自分の席に戻った。
吉川さんのお母さん?
会った事もないけど、何で?
私は少し戸惑いながら封筒を見つめた。
やがてクラスメイトが次々と教室に入ってきた。
いつものように賑やかになり始める。
私は封筒を鞄のポケットに仕舞い、いつものように声を掛けてきた仲の良い友達と話し始めた。
放課後、寒さのせいかみんな寄り道しないで家に帰ると言うので、私は一人で図書室に行く事にした。
借りていた本を返して、新しいのを借りる。
誰もいない図書室で、私は椅子に座って吉川さんから渡された封筒を開いた。
白い便箋に書かれた手紙。
字を見て一瞬で分かる。
ママからだ。
少し細めの小さな字が、つらつらと並んでいる。
何で?
何でママからの手紙を吉川さんが?
とにかく読もう。私は便箋を広げた。
葵へ
高校はどうですか?一緒に入学式に行けなくてごめんなさい。
何から話せばいいのか、書き始めてから早速分からなくなってきたけど、とりあえずこの手紙を届けてくれた吉川さんに感謝します。
実を言うと、高校の入学式は離れた所から見ていました。
葵が制服を着て学校に向かうところが見たかった。
私はたくさんの人に紛れながら、葵を探して見付けました。
パパは入学式来てくれたんだね、良かった。
制服を着て、真っ直ぐ前を見て歩く葵を見る事ができて嬉しかった。
赤いリボンが映える、良い顔をしていました。
大人っぽくなったね。
何回か入学式はあったけど、私はその度に大きくなる葵が誇らしかった。
式を終えて帰る人達に紛れてバス停に向かいました。
バスか来るまで、並んで待っている時の事です。
隣にいたのが可愛らしい瓜二つの男の子と女の子、双子です。
葵と同じ学校の制服を着ていました。
お母さんらしき人もそこにいて、入学式に来たようなスーツ姿でした。
その時スマホの着信音が鳴り、双子のお母さんは「はい、吉川です」と言って電話に出ました。
吉川さん?
男女の双子。
私ははっとして気が付きました。
近所にいた、お喋りな吉川さん、あの吉川さんのお孫さん。
見た事がなかったけど、話には聞いていたので、電話を終えた吉川さんに思い切って声を掛け、仲良くなりました。
今では時々ご飯を食べに行く仲です。
そこで私は家の話を吉川さんに聞いてもらい、吉川さんの娘さんを通じて葵の学校での様子も聞いたりしていました。
今回手紙を届けてもらったのは、そんないきさつです。
さて、まずは去年の春の事から。
いきなり家を出て、葵にはたくさん嫌な思いをさせたと思います。ごめんなさい。
葵が小学校に入る少し前から、パパと私の仲は冷え始めて、葵もそれを感じとっていたでしょう。
見ての通り、私とパパはお互いを愛していません。
いくらうわべを取り繕っても、大きくなっていく葵には隠しきれない。
葵が私達夫婦の冷え切った空気を、そっと伺うような表情をしているのに何度か気付く事もありました。
パパとはいずれ正式に離婚する事になります。
親の離婚、葵は辛いですか?
私はこんな夫婦関係を子供の前に晒し続けるくらいなら、いっそ離れてしまった方がみんなにとって良いのではないかと思っているけど、葵はどう思う?
私が家を出た理由はたくさんあります。
パパとの不仲もあるけど、正直おばあちゃんとの同居も居心地悪かったし、毎日気詰まりでした。
葵の好きなおばあちゃんとは、仲良くなれなかった。ごめんね。
掃除などの手入れに時間を取られる大きな家も嫌いだし、土足でプライバシーに踏み込むご近所さんも嫌い。
息が詰まるような環境で、妻であり母親であり続けようとする自分。
好きになれるところが一つも見付からない。
そんな十八年でした。
毎日を過ごす度に自分が空っぽになっていくようで、早くここから出ないと私は完全にいなくなってしまう。
あの家にいる自分を完全に嫌い始めた時、家を出る気持ちが固まりました。
自分の事を嫌いになるって本当に辛い。
葵はあの家が好き?
小さい頃から育った馴染みのある家だし、もしあの家が好きだったら大切にしてあげて下さい。
今は離れてみて、時々葵と暮らしたあの家を懐かしく思う時もあります。
私があの家で葵を育てた時間は、私の人生の幸せな時間である事は間違いありません。
出産して里帰り先から帰った時、ベビーベットにちんまりと眠る葵を見て、私は何があってもこの子を守っていこうと固く誓いました。
初めて寝返りをうったリビングでご機嫌に笑う葵、つかまり立ちをしていたキッチンの戸棚から手を離して、初めて歩いた葵。
テレビの前で、夕方の五時二十分には必ず踊っていた葵。
温かな食卓を葵と囲んで、毎日一緒にご飯が食べられて幸せでした。
右隣の椅子で、私の作る食事を美味しい、と言ってくれた葵を昨日の事のように思い出せます。
それでも、あの家に戻る事はもう二度とありません。
葵はこれからもっと大人になっていき、私の手を必要としなくなる。
もうあの家での私の役目は終わったのだと思っています。
この先、あの家で五十代、六十代、七十代、と続いていく自分の人生を想像しました。
歳をとって、だんだん体も思うように動かない私。
そんな私が泣いています。
「自分の人生を歩けなかった」と言いながら。
私は自分勝手でしょう。
自分の為だけに家を出たのです。
葵に憎まれても恨まれても仕方がありません。
娘に対して自分の思ってる事も、人に渡してもらう手紙でしか言えない私です。
それでも、どうしても葵に会いたいし、話がしたい。
今回そんな気持ちが抑えきれずに手紙を書きました。
顔を見たいし、声が聞きたい。
葵が嫌だったら、もちろん会いません。
でも私がいつまでもそう思っている事だけは知っておいて欲しかった。知っておいてくれるだけでもいいんです。
もし葵に何かあった時、その時は葵の力になりたいし、できる事はしたい。
その気持ちはずっと変わらず持っています。
葵が私の大切な宝物であるのは、この先変わることのない事実です。
今、私は生まれ育った実家の近くに部屋を借りて住んでいます。
働きに出て、自分で家賃を払って暮らす家。
この歳になって、一人暮らしするなんて思ってもみなかったけど、私は今の暮らしが結構好きです。
もし、葵が嫌でなければ、連絡下さい。
090・・
最後に見た事のない携帯番号やメールアドレス、通信アプリのIDや職場の電話番号らしきもの、とにかく色々な連絡先が書いてある。
私はすぐに自分のスマホを取り出すと、一番最初の携帯番号にかけた。
コールが鳴る度に早くなる鼓動。
つながって欲しいような欲しくないような気持ち。
ママは仕事中かもしれない。
そう思った時、コールが止んだ。
「もしもし」
ママの声。
私は息を呑んだ。
一番最初に、何が言いたかっただろう。
ママがいなくなって責める言葉?
出て行く前に、こうなった理由を説明して欲しかった?
約十ヶ月の間に積もった気持ちは、一言では表せない。
「ママ、連絡先は一つで充分だよ」
私の口から出たのはそんな言葉だった。
「葵?」
ママは私の名を呼んだけど、何も言わない。
去年の春、ママが出て行った日の事を思い出す。
キッチンに行くと、私一人分の朝食だけ用意されていた。
冷めきった野菜スープと目玉焼きとトースト。
ママが最後に用意して行った、私の朝食。
家から出るすべての準備を終えて、スープや目玉焼きを作るママの姿を思い浮かべる。
どんな気持ちで作って行ったんだろう。
口うるさく怒られて嫌だった事もあるし、喧嘩してぶつかった事もたくさんある。
なのに思い出すのは、いつも一生懸命食事を用意している後ろ姿。
私と目が合うと「どうした?」と言って、微笑む顔。
何かと学校での様子ばかり聞く夕食時。
ママがいなくなってからよく思い出すようになった、昔の記憶。
小さかった頃、私の髪を丁寧にピンで留めてくれたママの手。
何度か触れた、うさぎの飾りの小さな耳。
そんな私を見つめる、優しい眼差し。
私の頬に触れた、ママの柔らかな指先。
「ママ、会いたい」
静かな図書室に私の声だけが響き、自分の耳にもはっきり届いた。
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