千秋と美紅

2/8
2068人が本棚に入れています
本棚に追加
/199ページ
半年前まで本社勤務だった西川美紅は、出勤してすぐ支店の掃除を始めていた。 早く仕事に慣れるために、毎日一番最初に出勤している。 本社から支店への異動理由は、同じ部署に所属していた時の先輩、西川千秋と結婚したからだった。 「西川さん、おはよう」 勤務時間の20分前ぐらいから、パラパラと人が増えてくる。 「おはようございます!」 支店の空気はとても良く、皆が和気藹々としているので美紅も仕事が捗る。 本社勤務では無くなったが、やり甲斐は変わりなかった。 充実した毎日。 家に帰っては、夕飯の支度をしながら愛する夫を出迎える。 いつか子供ができて、家族が増えて。 自分の両親と同じように、そんな普通の生活が幸せだと信じていた。 千秋となら、そんな生活が送れると、そう信じて結婚したのだった。 「今日はどうだった?疲れてない?」 夕飯の席で、千秋は美紅を気遣って話しかける。 「仕事はそんなに今日は大変じゃなかったよ。千秋さんはどうだった?」 「俺の方は毎日変わらないさ。でもやっぱり美紅の抜けた穴はデカいかな。半年たって、やっぱり美紅以上のアシスタントはいないんだってよーく分かりました」 優しい千秋の言葉に美紅は顔が綻ぶ。 千秋はいつだって、いつも優しく包んでくれる。 愛してくれる。 本当にこの人と結婚して良かったと美紅は常に思う。 千秋も頑張り屋の美紅が、嫌な顔もせずに仕事も家事も頑張ってくれて、美紅と結婚できて本当に自分は幸せだと思っている。 ずっとこのまま、何年経っても愛し合えるとお互い信じていた。
/199ページ

最初のコメントを投稿しよう!