04.別人

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 私が息を詰め、すぐあとに怜央くんがびくんと腰を震わせた。初めて怜央くんの達するところを見た。額に汗を滲ませて、薄く開いた口から荒い息を吐く。うつむいていた視線は、ふいに私に視線を向けた。熱の残った視線が胸に突き刺さる。 「上手にできたね。慣れてきた?」 「……」  あれから怜央くんの部屋には毎日来ている。毎日、ベッドの上で怜央くんの手によって声を上げていた。でも終わればすぐに自分の部屋に戻る。セフレ以下のような関係だ。 「そうだ。明日は来なくて大丈夫だから」  怜央くんは乱れた服を直しながら、何気なく言う。 「……え?」  ドキリとした。 「明日紗江の歓迎会でしょ。忘れてた?」 「あ……そうだったね」  ここのところ残業をしても毎日怜央くんの家に来ていたので、来なくていいと言われてほっとするよりも先に「なんで?」と思ってしまった。他の女の人が見つかったのかと思った。  どうして焦っているのか自分でも理解できなかった。  まさかまた好きになっちゃった? そんなわけない。だってこの人は昔の怜央くんではなくて、女の人と遊ぶ軽薄な人だ。好きになるはずがない。私としている理由だって、うるさくて眠れないと文句を言ったからだ。私が文句を言わなかったら、他の女の人と寝ているだろう。  ただの身代わりだということを忘れてはだめだ。
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