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「手島さん、これよろしく」
「はい」
怜央くんに契約書類を手渡されて、作業用ボックスに入れる。ここのところ仕事が慣れてきたせいか、仕事量が増えてきた。怜央くん担当の案件だけではなく、他の営業の人の業務も受け持つことになり、定時退社が難しい日々だった。
「手島さーん、この前頼んだ覚書の進捗どう?」
営業の倉本さんに声をかけられて、どの案件だったかな、と考えを巡らせる。数日前、依頼されて作業用ボックスに入れたことをなんとなく思い出した。
「え……あっ!」
「もしかして忘れてた?」
「いえ、あの、すみません」
忘れてました、とは言いづらい。他の案件で立て込んでいたとはいえ、「忙しかった」は言い訳にはならない。
「あー……すみません。僕のほう優先させてもらっちゃいました」
「え」
隣の席の怜央くんが、割って入ってきた。怜央くんとはそんな話はしていない。
「おいおい勝手に困るよー」
「すいません。急ぎだったもので。今日中には終わらせます。ね、手島さん」
「は、はい! 倉本さん、すみません」
私のミスを、怜央くんはフォローしてくれた。慌てて頭を下げると、倉本さんは困った顔をしていた。
「まあまだ間に合うからいいけど……よろしくね」
「はい!」
最近仕事が立て込んでいたのは事実だけど、もらった仕事順に処理をするようになっているので、期日は特に気にしていなかった。もっと気にするべきだった。
「……有馬さん、ありがとうございました」
「いえいえ。最近みんな手島さんに頼りすぎだし。ていうか倉本さんはちょっとせっかちなところがあるから聞いてきただけかもね」
「でも、私が悪いです。仕事溜まっていってるのに相談もできなくて」
「……断るのとか苦手?」
遠慮がちにだがこくりとうなずいた。
「そうだよねえ、昔からそうだったよね。だから俺もつけ込んでるんだけど」
「え?」
「はい、じゃあ覚書先にやっちゃおうか」
「は、はい」
作業用ボックスにあるたくさんの書類の中から見つけ出し、倉本さんの覚書を優先的に終わらせた。作業時間はそれほどかからなかったので忘れていた自分が完全に悪い。怜央くんには迷惑をかけたくないので、いつもよりも集中して仕事を進めた。
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