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「遅くなったけど、手島さんようこそ~」
乾杯、とビールジョッキやグラスを合わせる。
歓迎会の場所は普通の居酒屋チェーン店だ。金曜日の夜なので店内はざわついていて騒がしい。今回の歓迎会は営業課のみなのでそれほど人数も多くはなく、気軽な感じで安心した。
「手島さん、飲んでる?」
「あ……倉本さん、今日はすみませんでした」
「え? 全然いいって、ちょっとどうなってるかなって聞いただけだから。あのあとすぐ終わらせてくれて助かったよ」
お酒の席だからか、倉本さんはいつも以上にご機嫌だ。私の隣に移動してきて、何杯目かのビールを流し込んでいる。
「仕事慣れた?」
「はい、おかげさまで」
倉本さんは怜央くんより先輩らしく、営業成績も良い、営業部には欠かせない存在の人だ。ちょっと軽薄な印象を受けるが、営業の人は口がうまくないとやっていけないのだろう。
「ところでさ、手島さんは彼氏いるの?」
「えっ……」
予想外の質問に一瞬固まる。
「あ、いる反応だ~残念」
「い、いません!」
一瞬怜央くんのことが頭に過ってしまった。けれど怜央くんは彼氏ではない。セフレとも違うような気がする。ただ言われるまま身体を授けている関係だ。ちらりと怜央くんのいるテーブルを見ると、女性陣に囲まれてやけに楽しそうだった。あんな爽やかな笑顔をしたらみんな好きになるに決まってるじゃない、と腹を立てた。
「そっかーいないのか」
倉本さんは、うんうんとうなずきながらビールを一気に飲み干した。
「あ、次は何を頼みますか?」
メニューを差し出すと、彼は「優しいねえ」と微笑む。ふにゃりと笑った顔は少し幼く見える。普段の姿とは違う一面を見て、親近感が沸いた。今まで怜央くんとばかり話をしてきて、他の人とはあまり会話をしてこなかったので、純粋に楽しかった。
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