06.初恋

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「行かない」 「……どうして?」  きょとんと私を見る怜央くんから目をそらして、手も離した。好きだって気づいちゃったからもうしない。とは言えない。 「どうしても」 「……なにふてくされてるの? 出張先では誰ともしてないよ」 「っ、そういうことじゃないよ!」  カッとして声が大きくなった。怜央くんの頭の中はやっぱりそんなことばかりなんだ。見た目とのギャップがひどすぎる。 「じゃ、じゃあね私帰るから」  怜央くんに背を向けて、自分の部屋の鍵を開ける。部屋に入ってしまえばこちらのものだ。 「……痛っ」 「俺から離れたいの?」  ドアノブを握った手首を、強い力で握られる。 「なんで? 一回最後までしたから悶々としてたのおさまっちゃった?」 「……違うってば」 「じゃあ他に男できた?」 「そんなわけないよ。手、離してよ」  手を離してくれないと、ドアノブを回せない。 「……だめだよ。紗江は俺のものなんだから」 「変だよ、怜央くん」  私のこと好きなんかじゃないくせに。  他の女の人でもいいくせに。 「紗江、急にどうしたの。今までは気持ちよさそうにしてくれてたのに」 「とにかく、もう怜央くんの家行かないから!」  そうでもしないと気持ちが爆発してしまいそうだ。 「……そっか。わかった」  私が激高すると、怜央くんの手が離れていく。これほどあっさり引くとは思っていなかったので安堵はしたけれど、胸のあたりが苦しくなった。怜央くんはただ発散の相手が欲しかっただけだ。最初からそれが目的だったのはわかっていたはずなのに、なにを勘違いしてしまったのだろう。目の奥のほうがじりじりと痺れてきたので逃げるようにドアノブを回し、部屋に入る。ドアを閉めようとすると怜央くんはするりと入ってきた。怜央くんの後ろでドアがガチャンと閉まる。 「……って言うと思った?」 「きゃっ」  細い腕とは思えないくらいの力で身体を引き寄せられ、ふらついたまま怜央くんの胸に倒れ込む。
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