Vintage

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 一言だって声はないから六華の気持ちがわからない。失敗、だったかな。目を伏せて唇を噛みしめると、ポケットに振動を感じた。 「ねえ、これ……っ!」  全員に見えるようスマートフォンの画面を向ける。VintageのSNSグループが、一件の未読を知らせている。みんなで頭をくっつけるようにして小さな長方形を覗き込みながら、震える指先でボタンを押した。 『俺も歌いたい』  六華から溢れたその言葉だけでもう十分だ。みんなできつく抱き合った。六華にちゃんと、届いたんだ。 「六華に会いに行こう、今すぐ」  手の甲で涙を拭いながら言えば、全員が笑う。 『今から行くね』  それだけ送り、スマートフォンはしまい込む。六華の予定なんて知らない。返事がイエスでもノーでも関係ない。だって今の私達に、待てるわけがない。  高校生の頃よりは大人になって、もう相手の返事を待たずに押し掛けるなんてことしなくなったけど、今はたとえ六華が嫌がったって、私達はどうしても六華に会いたいんだ。  歩みが徐々に早くなり、自然と走り出す。  風花ちゃんが病院名を私達の背中に叫ぶのが聞こえて、顔だけ振り返って手を振る。思わず足がもつれて転びそうになるのを、周と真由子に両脇から支えられる。 「本当すぐ転ぶ。変わらないね」  変わらないよ。だってみんなが支えてくれるってわかっているから。  運動なんてろくにしていなかったのに、駅までの道のりは誰の足も止まらない。いつの間にか雪は止んで、またどこまでも澄み渡る空が広がっていた。  出会ってから今までも。そしてこれからも。私達の記憶は色を変えながら連なっていく。色は変わってもその輝きは決して色褪せない。  この世界を照らす、太陽みたいに。
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