Vintage

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 丁度冬休みも近かったから、地元に帰る日程は割とすぐに決められた。 「曲はどうする?」 「やっぱり、Vintageがいいな」  六華が一番好きな曲。この曲を歌いたくて六華はグループを作ったし、グループ名もその曲名をもらったくらいだ。画面の向こうでみんなが頷いた。 「パートはどうする? ボイパは誰かが練習するか、なくても違和感ないようにアレンジしなおすか」  瑛大の提案に、私は首を横に振った。 「誰かがボイパしたり、なしのアレンジにしたりするのは嫌だ。これまでのままで、六華が帰ってこれる場所をあけときたい」  私が言い切ると、周が頭を撫でてくれた。みんなもまた笑顔を返してくれた。  約十日間の個人練習の後、私達は高校生の時によく練習で使っていた、めったに人のこない広場に集まった。  とりあえずと早速歌を合わせてみたけれど、さすがに現役の時のようには行かなかった。ボイスパーカッションがないので、どうもリズムがずれてしまう。寒さに喉が広がらないし、ブランクもあって呼吸が合わない。 「ねえ、手繋ごうよ」  高校生の時から私たちのマスコット的存在だった季依ちゃんが、癒し系の笑顔で言った。 「大丈夫だよ。私達は、時が経っても輝けるVintageだもの」  冷え切っていた手先が温かくなる。いつも六華と繋いだ左手を今日は瑛大と繋ぐ。ゴツゴツとして男の子だなっていう瑛大の右手は六華のそれと全然違っていて、だけど同じようにとても温かかった。
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