Vintage

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 休憩をしていると、周が私の後ろに向かって手を振った。振り返るとそこに風花ちゃんがいた。私達に向かって深々と頭を下げる。この子もあの頃より大人になったのだと感じた。  過去の棘がいつまでも痛むふりをしていてはいけないのかもしれない。 「兄の為に本当にありがとうございます」 「辛かったでしょう。風花ちゃん、六華のこと大好きだったから」  周の言葉に、風花ちゃんがスイッチが入ったように泣き崩れた。同じく苦しんでいる家族の前では懸命に気丈に振る舞ってきたのかもしれない。  最近の六華の様子を改めて尋ねると、やはり順調とは言えないらしい。六華がこうなった原因は不明だけど、多才かつ繊細な六華のことだ。一つの何かが原因じゃなくて、多くの小さな歪みが募った結果なんじゃないかと思う。 「今日は皆さんに見てほしいものがあって」  そう言って風花ちゃんが取り出したタブレットから流れてきたのは。 「これ、六華のVintageのボイパだよね?」  いつだって狂いのない、絶対的な安心感のあるリズム。それなのにとても感情豊かで情熱的。六華のボイスパーカッションが、私は大好きだった。 「自分で録音して練習していたデータです。音も綺麗だったし、もしお役に立つならと思って」  音をとめてデータが一覧になったタブレットには、他にも六華の動画が並んでいた。ボイスパーカッションだけじゃない。リード、コーラス、ベース。全てのパートを歌う、高校生の六華の動画がそこにはあった。  思わず再生ボタンを押す。自分でどこかに固定して録画しているようで、自分を映すことに恥ずかしさもあるのか、その表情はとてもぶっきらぼう。だけど奏でる音は、息を呑むほど魅力的だ。
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