Prologue. 神様がいたとして

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Prologue. 神様がいたとして

 普通の女子高生に、神様へ願うようなことなんて特にない。  だからきっとこれは私の初めての願いなのだと思う。 「あ、百円足りない」  今日マフラーを持ってきた自分は偉い。  そう自信を持って言えるほど、10月にしては珍しく北風の冷たい放課後。  自動販売機の前でクラスメイトの彼は自分の財布を覗き込みながら言った。 「じゃあいつものコンポタ買えないね」 「だねえ、でもこんな寒い日こそコンポタが美味しいんだけどなあ」 「そうね。マフラーもない君には余計に沁みそうだよね」  別に彼のコンポタ好きは今に始まったことじゃない。  彼は帰り道、いつもここの自販機でコーンポタージュを買って飲みながら帰る。春でも夏でも秋が始まっても美味しそうに飲んでいる。  彼は「うーん、そうだよなあ」と少し悩んで、こちらに向かって小さく手を合わせた。 「ごめん、百円貸してくれない? 明日返すからさ」  まあいいか。百円くらいどうってことない。  それよりもコンポタが一番美味しい日に彼がどんな顔をしてそれを飲むのか気になる。私は彼の幸せそうな表情が好きだった。  ……それに、明日も会えるんだって。   「ちょっと待ってね」  私は財布の小銭入れを開いて、中を見る。   「……あ」  そこで初めて私は願った。  ――神様お願い、百円貸して。
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