Case.1 神様が百円玉を貸してくれた場合

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Case.1 神様が百円玉を貸してくれた場合

「……あ、百円あった」  一目見て十円玉しかなかった小銭入れを探ると、百円玉が一枚出てきた。どうやら十円玉の裏に隠れていたらしい。 「はい。これ最後の百円だから落とさないでね」  私は百円玉を彼の手にしっかりと渡す。  指先が彼の掌に触れて、温度差に心臓が小さく跳ねた。 「ありがとう」  彼は自動販売機に百円玉を入れてコーンポタージュのボタンを押す。  その姿を私はもう何度も見てきた。 「おすすめの自販機はどこ?」    入学式の次の日にそう話しかけられて、私は「いやそんなのないでしょ」と思いながらも帰り道にある自販機にとりあえず連れてきた。 「うん。いい自販機だな」 「え、そうなの?」  不思議と高評価を得たことに驚く。 「だってもうこんなに暖かいのにまだコンポタが置いてある」 「たぶん年中置いてるよ」 「最高の自販機じゃないか」  お金を入れてコーンポタージュを買った彼は嬉しそうに笑った。 「良かったらまた案内してよ」  それから私たちは帰り道と時間帯が同じだったこともあり、よく一緒に帰るようになった。その度に彼はここの自販機でコンポタを買った。
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