Case.1 神様が百円玉を貸してくれた場合

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 ――あの出会いから半年。  今日も私の百円玉で彼は無事にコンポタを買った。  その姿を見ることができて良かったと思う。彼が買えずに悲しんでるとこなんて、一度だって見たくないもんね。 「ところでさ、コンポタ1缶に入ってるコーンの粒って何個か知ってる?」 「え、なにそれ知らない」 「大体だけど、50個くらい入ってるんだってさ」  彼は黄色い缶のプルタブを開けて、ゆっくりと口をつけた。  コンポタが好きだとは思っていたが、そんなことまで知っているとは。 「よく知ってるね」 「たまたま何かで見てさ。それでちょっと数えてみたんだけど」  彼は自分の持っている缶を指差す。 「今日で、僕たちが出会ってからちょうど5000個目のコーンなんだ」  え、5000? 5000ってすごいな。とうもろこし何本分?  私の思考回路がそんな命題に挑もうとした時。 「だから、僕と付き合ってくれませんか」    意味がよく分からなかった。彼の「だから」の意味も分からなかったし、このタイミングの意味も分からなかった。  でも彼の強張った表情を見て、その台詞の真意が沁み込んでくる。 「決めてたんだ。コーンが5000個になったら告白しようって」  緊張した面持ちでそんなことを真剣に言う彼。  それがあまりに可笑しく見えて、私は少し笑ってしまった。  食べたコーンの数を告白までのカウントダウンにするなんて、そんな人いる?  ――もうこんな人とは二度と出会えないんだろうな。 「3000個でも良かったのに」  私がそう言うと、やっと彼も笑った。 
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