Case.2 神様が百円玉を貸してくれなかった場合

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Case.2 神様が百円玉を貸してくれなかった場合

「……あ、百円ないや」  私は何回も小銭入れを揺らすも、その中に百円玉はなかった。  今の私の財布には数枚の十円玉と一枚の五千円札しかない。自動販売機の表示を見ると、五千円札は使えないようだ。 「ごめんね」 「いや僕が昼休みにコーンパンなんか買わなきゃよかったんだ」  彼は眉間に皺を寄せて悔しそうな表情を浮かべた。 「じゃあ今日は諦めるの?」 「……まあ、そうだね。残念だけど」  がっくりと彼は肩を落とす。  彼がコンポタを買う姿は何度も見てきたけど、こんな姿を見るのは初めてだ。 「おすすめの自販機はどこ?」  入学式の次の日に、そんな言葉で始まって。 「また案内してよ」 「今日も行かない?」 「こんな日はコンポタだね」 「テストおつかれ。乾杯しよう」  この半年、何度も何度も私は彼に誘われて。  何度も何度も美味しそうにコンポタを飲んでる彼を見て。  いつしか私も、彼のお誘いを楽しみに待つようになっていた。  
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