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その姿を目にする者に対して
「おい、入れ歯だ! 入れ歯が落ちてる!」
公園のすみっこに生えた雑草の中に入れ歯が落ちていた。ピンク色の歯茎、少し黄ばんだ歯。前歯から奥歯まで、口の上下の歯が見事にそろった入れ歯。
雑草の中で半開きのままの入れ歯は、その姿を目にする者に対してあざ笑っているようにも、威嚇しているようにも見える。
そんな入れ歯を見つけた子どもたちがさっそく大騒ぎしはじめる。
「うわ、気持ちわりい!」
「こんなとこに入れ歯落とすなんて、マヌケなじじいもいるんだぜ!」
「じじいじゃなくて、ばあさんかもしれない」
「汚い入れ歯だ! 触ったらバイキンがうつるぞ!」
まるで毒ヘビや毒ガエルを発見したときのような大騒ぎだ。そんなふうに入れ歯を前に大騒ぎする子どもたちを、ひとりの子どもが少し離れた場所から眺めている。
「あんなところに入れ歯を落として、困ってる人がいるんじゃないかなあ」
その子どもは、今までの遊びが中断してしまって困惑してるというような表情でその場にたたずむ。
その一方で、入れ歯のまわりで大騒ぎする子どもたちは、すでに新しい遊びを考えついていた。
「これは入れ歯に見せかけた敵の偵察装置だ。どこかに小さいカメラがついていて、おれたちを監視してるんだ。いつでも攻撃できるように」
「攻撃って?」
別の子どもがたずねる。
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