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和食を求めて
これは、私がとある国で生活をしていた時の話である。
その国は、米よりパンが主食だった。
私はその国に到着して3日目で米禁断症状になっていた。
とにかく米が食べたい! 白米が食べたい!
だが、飲食店にある米メニューは、チャーハンやパエリアなど、味が付いた米ばかり……
スーパーに売られている米は、細長い海外米ばかり……
私は日本米を求め、アジア食材店へ行った。この国に日本食材店などなく、日本食が欲しい時は、アジア食材店に行くしかなかった。
その店で私は日本米を探す……までもなく、入り口近くの棚に並んでいた。
棚には数種類の日本米がならんでいる。数は多くないが、選べるだけ種類があることに感動した。
そこで私は、とある米と目があった。
──────カルフォルニア産こしひかり!!
こしひかり、という字に感動したが、それ以上に、カルフォルニア産ということに驚いた。
私の中でカルフォルニアというと、暖かい地域というイメージがあった。はたして、こしひかりを育てられる環境なのだろうか?
だが、カルフォルニアというだけで、セレブな感じがする。
私はこの米を即購入した。しかも、無洗米。私が住んでいた地域は水が貴重なので、とても助かった。
帰宅した私は、さっそくこの国で買った炊飯器で、カルフォルニア米を炊いた。
だが、炊き上がったのは、米の表面がザラザラと毛羽立った悲しい白米だった。
こうなった原因はすぐに分かった。
標高が高いからだ。沸点が低いこの土地では、ふっくらとした米が炊き上がるために必要な温度まで水温が上昇しない。
悲しかったものの、久しぶりに食べる味付けなしの白米は美味しかった。
ちなみに標高が高くても、圧力鍋や土鍋で米を炊いた場合は、一粒一粒が光り立つふっくらとした米が炊ける。
土鍋は万能調理器具だと再確認した。
しかし、残念なことに、私は土鍋を持ってきていなかった。私が持参した調理器具は、フライパンの蓋だけだった。
ちなみにスーパーで手に入る和食の食材として、醤油とポン酢とカニかまがある。
醤油とポン酢は、日本と変わらない。これは、とても助かった……が、カニかまは違った。
鮮魚コーナーに売っているのだが、大きさは日本で売られているカニカマの2~3倍である。初めて見た時は、かまぼこじゃないか? と疑った。
味もカニの風味がほとんどなく、何よりも縦に裂けない。
かまぼこよりは固くないが、力を入れすぎるとボロッと崩れる。
そのため、カニカマが食べたくなったら、アジア食材店に売っている日本から輸入した冷凍カニカマを購入していた。
ここで私が経験した、和食の外食店の話も。
この国にも和食の外食店がある。そこで、寿司や天ぷらが食べられる。
天ぷらは日本とあまり差はないように感じた。デザートにバナナの天ぷらがあったが、それはそれで美味しかった。
寿司は握り寿司ではなく、巻き寿司が多い。そこで注意しなければならないのは、その中身だ。
どの巻き寿司にも、何故かクリームチーズが入っている。そして、メニューによっては、巻き寿司の上に、スライスしたマンゴーやバナナがのっている。
私は話のネタに、と一度だけバナナがのった巻き寿司を食べた。
上にのっているバナナの味と、かすかに米の味がしたぐらいで、食べようと思えば食べられる。
こういう料理だと言われれば、そうなのか、と納得して食べられる。
だが、これが日本の寿司かと言われたら、ノーとなる。これは、この国で進化した創作寿司だ。求めていた味ではない。
もちろん、日本と同じ寿司が食べられる店もある。スタッフに日本人がいるので、味も補償付きだ。
だが値段が高い。
バナナ寿司の店も値段が高い方なのだが、それよりも高い。つまり、この国では高級料理店になる。
あと、この国には寿司以外の和食の店もある。
日本人が関わっていない店は、和食と名乗っているが、中華やタイ料理が混じっていることが多い。そのため、純粋な和食ではない。
だが、味は美味しいので、和食ではなく創作料理として楽しめる。ただ、純粋な和食がこの国に広まるには、時間がかかりそうだと感じた。
数ヶ月後。
和食に近い料理が食べられる店を発掘していた私だが、とある禁断症状が出ていた。
──────おにぎりが食べたい!
自分で作ったのではない、店で売っているおにぎりが食べたい!
ふんわりと握られた白米。適度に入った具。そしてパリパリの海苔!
そう! コンビニのおにぎりである!
だが、この国には、おにぎりがない。海苔は巻き寿司用に売られているが、おにぎりを売っている店はなかった。
コンビニおにぎりを渇望する日々が続く中、私はとある情報を耳にした。
最近オープンした、和食の弁当を売っている店が、おにぎりの販売を始めたという!
私は喜び勇んで、その店へ行き、おにぎりを買った。
念願のおにぎりを手にした私は、その場で固まった。喜びで……ではなく、その大きさに驚いたのだ。
日本で売っているおにぎり二個分……というか山賊握り。
いや、見た目は問題ではない。おにぎりを食べられる、ということが重要なのだ。
私は自分に言い聞かせて一口。
そして、再び固まった。
恨みを込めたのかと思うほど強く握られたおにぎり。そこに求めていた、ふんわり感はなく、ただ固かった。
そして、分かっていたのだが、海苔はふにゃふにゃ。最初から巻かれていたので、それは仕方ない。
この国にいる間、理想のおにぎりと出会うことを諦めた瞬間でもあった。
その後。
帰国した私が空港のコンビニに直行し、おにぎりを買ったことは、言うまでもない。
外食時、微妙に残念だった和食として、うどんがある。
麺は日本で売られている、冷凍さぬき麺を使用。出汁は色が濃い関東風。味も問題なし。
では、どこが残念だったのか。
それは、具である。なるとが入っているのだ。かまぼこではなく、なるとが……理由は不明のまま。
あと、唐辛子抜きと注文しても、3回に2回は一味唐辛子が振りかけられていた。
しかし、トータルで考えると可愛い残念レベルだった。
ここで、和食から少し脱線話を。
日本はケーキが美味しいと、この国に来て再確認をした。
まず驚いたのが、この国ではケーキが常温で売られている。
しかも、スポンジはザラザラもしくは、シロップ漬けでベタベタ。クリームはバタークリームのため固く、味がない。
カフェを見つけるたびに、ケーキを試し買いしていた。しかし、どこも同じで、ほとんど諦めていた。
そんな、ある日。
私が住んでいた隣の隣の市にあるカフェで、素晴らしいケーキたちと出会った。
ふわふわしっとり、とまではいかないが、柔らかいスポンジ。
味があり、口の中で自然に溶けるクリーム。チーズの味がするチーズケーキ。
家から60キロぐらい離れた場所に、そのカフェはあった。そのため、車なら片道30分で行ける。(注:無料高速を通っているので速度違反はしていない)
私はケーキを買うためだけに、このカフェに通うこともあった。
他にも片道1時間半かかる場所に和食の店があったが、そこにも車で通っていた。
美味しい和食を食べるためなら、それぐらいの時間は問題ではなかった。
最後に、この国で初めて正月を過ごした時の話を。
異国の地でも正月は正月らしく! と、おせちセット注文し、雑煮を自分で作ることにした。
スーパーでも正月が近いためか、普段は売られていない貝殻付の貝があった。
私は冷凍エビと冷凍貝を購入。(貝の種類は不明だが、そこは気にしないことにした)
海から遠く離れたこの地では、生の魚介は危険なため、冷凍のほうが安全なのだ。
雑煮の出汁を作ろうとしたが、カツオ節は値段が高く、昆布は売っていない。そのため、日本から持参した顆粒出汁を使った。
そして、おせちと雑煮が食べられるように下準備を終え、除夜の鐘を聞くことなく就寝…………
と、思ったら深夜に花火の音で起こされた。
日本の打ち上げ花火のように風情があるものではなく、ロケット花火という音が大きいだけのものだった。
翌日。正月の朝。
カツオと昆布の顆粒出汁と、スーパーで売っている醤油で汁の味を整えたお雑煮の汁。そこに、解凍したエビと貝を汁の中に入れ、軽く火を通す。
その間に、アジア食材店で購入した、真空パックの餅を焼く。
お椀に汁を入れ、餅をのせて、お雑煮の完成!
おせちを皿に並べ、雑煮と共にテーブルに置く。少しだけ正月らしくなった。
雑煮の汁はカツオと昆布の出汁に、エビと貝の出汁も加わり、美味しかった。
我ながら上手くできたと思いながら、餅を食べ、エビを食べ、貝を食べ……て箸が止まった。
貝(何貝かは不明)を食べたとたん、口の中に砂が広がった……
「砂抜きしてから冷凍しろよ!」
私は思わず叫んだ。せっかく作ったし、この味は、捨てるには勿体ない。
私はお雑煮の貝以外を食べ、正月を終えた。
後日。
私は近所の日本人とお雑煮の話をしていた。
そこで、冷凍貝に砂が入っていたことを話したら、その人も同じ貝を買っていた。そして、驚きの言葉を聞く。
「あの貝、砂が入っていたから水につけて砂抜きしたんだけど、砂が抜けなかった」
……冷凍した後の貝を水につけて砂抜き!?
あまりの衝撃に、私はなんて返事をしたのか覚えていない。
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