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「まったく、何処に隠れてしまったのでしょうね、春之くんは。いくら社長の節操無さに呆れたからと言って私にまで黙って行く事はないのに」
ふざけた口調であからさまに八紘を責める石崎には、あの夜の出来事も、春之の過去も全て知らせてある。
「ふざけてないで予算を早く通して来い。それが今日の仕事だ」
「そんな無体を強いるから春之くんも逃げ出したんだと思いますよ」
それからというもの石崎はずっとこの調子で八紘を責め続けている。
「春之を連れ戻した暁にはアンタの嫌味をいくらでも聞いてやるから、さっさと仕事をしてくれ。これも春之の為だ」
ここで春之の名前を出せば石崎は引き下がるしかない事を知っている。チッと部下にあるまじき舌打ちをしながら退出する石崎を見送りながら、八紘は止められなかった溜息を零し、備え付けの電話に手を伸ばす。
事の目途はついた。連絡は必要だろう。
「八紘です」
コール二回目で応対した相手は父親だった。
「手に入れたい相手ができました」
手短に本題を告げ、続けて洗いざらい相手を変更した結婚式の執り行いも、その相手が男である事も含め報告してしまう。
そんな息子に、父は至って淡々と『馬鹿な奴だ』と言った。
「どういう意味です」
男を相手に選ぶなどという理由で馬鹿にされるなら、大切な春之のためにも怒らずにはいられない。しかし父はやはり祖父・洋至の息子であり、八紘の父親だった。
『逃げられてから気付く奴に馬鹿だと言って何か問題でもあるのか』
結婚する相手が男である事には一切触れず、愛おしい相手を逃がした八紘を嘲る。
「うっさいな。これから手に入れるんだよ」
『手に入れられてから報告しろ。結婚式に新郎のお前一人が立っているなどお笑いにもならんぞ。母さんには言っておいてやる』
更に笑い飛ばされて勝手に通話を切られた。
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