―逃げた花嫁―

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「手に入れるさ。必ずな」  予定されている結婚式の準備も進めたままだ。客への招待状も既に出し終えていた。その招待状の差し出し名は八紘の名だけの明記と言う不思議な状態にも関わらず出欠の返事も続々と返って来ている。  未だ弓束は娘を探し出せていないらしい。その後の連絡が一切ないという事が全てを物語っている。 「まったく、どいつもこいつも手の掛かる」  くさくさと悪態ついた声は自身でも呆れるくらい嗤っていた。  この状況を楽しんでいる。  今まで心から欲した相手も居なければ、自らが選んで傍に置いた相手に逃げられた事も無かったのだ。それなのに春之を手に入れる為に自らが動いている。  八紘は何とも言えない高揚感を感じずにはいられなかった。  数日後。 「で、改まって何だ。春さんはどうした」  雪春の絵で飾られたあの料亭に、八紘は洋至を呼び出した。 「結婚式までもう一週間も無いだろう」  渋い顔で問う洋至に八紘は一枚の絵を見せた。 「祖父さん、この絵どう思う」  唐突な八紘の質問にも洋至は動じない。 「お前がどうしても欲しいと言った絵だな」  無言で見つめる八紘に洋至は深く頷いた。 「ようやく分かったか」 「やっぱり、これは春之自身か」  赤と白の寒椿に囲まれた白い子兎の絵を前に、洋至は「そうだ」とも「違う」とも言わず冷酒を一口煽り、ポツリと呟いた。 「あの子は春之というのか。()()だな」  男の子というには年が行き過ぎているが、祖父にしてみれば三十を越えた孫もまだ子供の域なのだから、数ヶ月後まではギリギリ二十代の春之が子供扱いされた所で仕方ない。
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