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八紘は朝の光に誘われて目を覚ます。
一番に飛び込んできたのは、ベッドの傍に膝をつき、八紘の寝起きの顔を覗き込む春之の穏やかな顔。
一瞬絡んだ二人の視線に彼は、からかっているような愉しそうな笑顔で朝の言葉を掛けてくる。
「おはようございます、旦那様」
すでに起きて日常の支度を整えている春之は、もう女性の服を着ていない。
「おはよう」
答えて起き上がると、部屋の異変に気付く。
「春之……あれ」
「はい。春之と――八紘さんです」
淋しく椿を抱える子兎の絵の横に、新しい絵が掛けられていた。
「斉木さんにお願いして透明水彩を用意して頂いたんです」
照れた笑顔で春之も絵を見遣る。
「こんな単純なものでも、まだまだなんですけれど」
桜舞う中、小さな兎は温かな虹のような光に包まれて、穏やかな眠りについている。
「ずっと、傍に置いてください」
心の底から愛おしいと思う。
絶対に放さないと誓う。
「春之――キスを――」
「……はい」
温かい誓いは口付けに優しく溶けていった。
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