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花嫁ドロップ 番外編 ―大晦日の夜に―
ふわりとした温もりにくるまれて、柔らかい何かに撫でられた気がした。遠いどこかでギシっと音が響き、その物音で八紘は意識を浮上させる。
屋敷の書斎で持ち帰りの仕事をしている間に、どうやら眠り込んでしまったらしい。
仕事納めの直前で大量に持ち込まれた書類の山を結局は持ち帰り、目を通していた。それにも限界がきて、背もたれに凭れフウっと疲れを逃がしたところまでは記憶がある。不覚にも、その状態のまま寝落ちてしまったようだ。
不自然な体勢で寝落ちた体は、あちらこちらがギシミシと軋む。
「ったく、石崎は俺を過労死させる気だ」
ひとりごち体を伸ばしかけたところで、自分の体温を含んだ毛布が足元に落ちた。
それを拾い上げ、八紘は口元を緩める。
「バカだな。起こせば良いのに」
普段、多忙な八紘の仕事の邪魔などしないのに、書斎を覗きに来たという事は、過労気味なこの状況を心配したのだろう。そうして覗いてみれば、八紘は椅子に座ったまま寝落ちていて。
これを掛けてくれた相手の困り顔を思い浮かべただけで、自身の中に相手を求める熱が湧く。
机上の書類は一時間もあれば片付く量にまで減っている。
「とっとと終わらせるか」
八紘は自分に言い聞かせ、再び書類の束に向き合った。
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