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翌朝、迎えに来た先輩吸血鬼は上機嫌だった。
「一週間で熟すとは、さすがルカは優秀だな」
もちろん、普通の人間からは、神社の鳥居の上に腰掛けたその姿が見えることはない。
上機嫌だったのはほんの一瞬で、彼はシャツの襟元に指をひっかけると、顔をしかめた。
「それにしてもひどい湿気だな。――さっさと帰ろうぜ」
「……少ししたら行く」
「そうか? じゃああとでな」
流果は鳥居の上に立ち、眼下に広がる街を見下ろした。関わった人間の記憶は消されるから、もうこの景色の中に、自分のことを覚えている人間はいないはずだ。ただのひとりも。
偽物の祖父母も、教師も、クラスメイトも。
光太郎も。
朝靄の中、黒い翼を翻した。霧の合間から指し混み始めた朝日が、なにかにきらりと反射する。
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