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ペトロクロス3
「妹の身に何が起きたのか、すぐにわかりました。ですが何度警察に訴えても聞いてくれません……あとで判明した事実ですが、ジェファソンはある上院議員の次男だったのです」
「金と権力で揉み消したと」
汚職に染まった警察はカイル・ジェファソンが女子大生を殺した事実を隠蔽し、アマンダの死を通り魔によるレイプ殺人で処理した。
「神父さまも新聞を読んだならご存知でしょうが、アマンダの死体には生前の輪姦の痕跡がありました。新聞にはとても載せられないような事もされてました」
カイルが一方的に持ち出した別れ話に納得できないアマンダは彼を追いかけ、そして……。
「証拠は?」
「ありません。けれど彼しか考えられません。通り魔や地元の不良グループの犯行だなんて冗談じゃない」
アメリアは固く目を閉じ、てのひらに爪が食い込むほど拳を握り込む。
「ジェファソンはアマンダの葬儀にも一切顔を見せませんでした。アマンダを埋葬した私は、喪服のまま彼に会いに行きました。真実を知りたくて……真っ昼間っからクラブに入り浸り、取り巻きと女の子をはべらした彼は、私の顔と名前すら覚えていませんでした。私はアメリアの姉だと名乗り、最後に会ったのはあなただろうと、妹になにをしたと問い詰めました」
瞼の裏に克明に甦るおぞましい光景。
ミラーボールが光をカッティングするクラブの特等席。
半裸に剥いた女を傅かせ奉仕を強いる傍ら、上質なソファーにふんぞり返ったカイルは、退廃に溺れきった眼でアメリアを値踏みする。
「ジェファソンはとぼけました。なお食い下がれば」
『証拠もねェのに決め付けてクソ垂れ流す、下の口がユリぃアマンダに劣らずアンタの口も育ちの悪さが出てんじゃん』
下卑た侮辱にも増してアメリアの心を切り裂いたのは、去り際に投げかけられた卑劣な揶揄。
『アンタの可愛いアマンダ、最期の声よかケツ掘られてる喘ぎの方がデカかったぜ』
クラブにたむろった連中はドッと笑った。
犯行を自白したも同然だ。
「ジェファソンにはアリバイがあります、アマンダの死亡時刻には常連のクラブで踊ってたことになってます。店の人間を買収して口裏合わせたのよ……警察もあてになりません、相手は名家出身の上院議員の息子です。遺族の訴えなんて逆恨みで片付けられる」
椅子から腰を浮かせたアメリアが、仕切りに向かって直訴する。
「お願いです神父様。私の代わりに復讐を」
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