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ペトロクロス5
数週間後。
カイル・ジェファソンは愛車を飛ばし、悪友たちと飲んだくれていた。
「親父のヤツ、偉そうにしやがって。ほとぼり冷めるまで出歩くなとさ」
スポーツカーの運転席でビール瓶をラッパ飲みし、空になった瓶を走行中の車から投げる。
路面で破砕した瓶には目もくれず、ネオンを散りばめた夜風に髪を嬲らせる。
「そりゃ仕方ねえ、あんな事があったばかりじゃ」
「大統領選への出馬も噂される有力議員の次男がドラッグとアルコール浸り、日々女を漁るだけじゃ飽き足らず殺人までやらかすなんて大スキャンダルだもんな」
後部座席で騒ぐ腐れ縁がまぜっ返す。皆ドラッグでハイテンションになっている。
手に手に持った瓶を道路に投げ付け、発狂したように咆哮する若者たちを振り返り、ハンドルを回すカイルが嘯く。
「お前らだっていい思いしたろ?おさがりに味をしめてさ」
カイル・ジェファソンは外道だ。
物心付いた時から父親の威光を嵩に着て、好き勝手やってきた。
店を借り切り豪遊し、ドラッグでハイになり、女を酔わせて輪姦するのを愉しんでいた。
アマンダ・オースティンはカイルにとってその他大勢の一人にすぎない。
カイルの脳裏をアメリアの憤怒の形相が横切る。
「姉妹そろってヒステリーだな、クラブまで怒鳴り込んでくるたァたまげたぜ」
「けどよ、いい女だったな。ちょっと地味だけど」
「なんだあーゆーのがタイプかよ?」
「喪服がそそる」
「年増は趣味じゃねェが、お前がそういうならわからせてやるか」
「一発目は譲れよ」
「俺は後ろがいいな」
「変態め」
スポーツカーを颯爽と乗り回し若者たちが哄笑を上げる。
中の一人が虚空に振りかざした瓶が常夜灯の柄に激突、破片が飛び散って鋭利な切り口をさらす。
スポーツカーの運転席に陣取るカイルの横顔を、雑居ビルの屋上から何者かのスコープが捉える。
「カイル・ジェファソン、22歳。婦女暴行と殺人未遂、覚せい剤所持と過重暴行の常習犯。逮捕される都度父親が莫大な保釈金を積んで刑務所行きを免れていますね。脅迫されて訴訟を取り下げたもの、自殺に追い込まれたもの、未だ心身ともに後遺症に苦しむものも多い」
最初から遊んで捨てる算段だったカイルにとって、アマンダに付き纏われたのは誤算であり、大層迷惑だったのは想像に難くない。
取り巻きたちも似たような素性の坊ボンどもで、カイルの犯罪に加担した裏付けがとれた。
屋上に臥せり、隙のない姿勢でスナイパーライフルを構える神父。
闇に擬態するカソックは格好の迷彩となり、彼の姿を覆い隠す。
まるで夜梟。
単眼鏡の照準を覗き込む。十字の丸枠にカイルの馬鹿笑いを映し、独りごちる。
「準備は整いました」
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