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ペトロクロス6
カイルたちはクラブに向かっていた。ルートは決まっている。
ネオン散り咲きゴミが氾濫する猥雑な路上を駆け抜け、立ちんぼの売春婦を中指立てからかい、ショッピングカーを押す老いぼれホームレスに酒瓶を投擲する。
「今夜も弾けるぜ野郎ども」
一際派手なネオンで主張するクラブの正面に、タブロイドを吹き上げてスポーツカーが滑り込む。
クラブの名前は『Inferno』だ。
「ンん?」
車から降り立ったカイルが目を細める。店の入り口に豪奢なファーの襟巻をたらす女が立っている。
大の女好きなカイルの下心が疼く。格好からして商売女だろうが、一晩買ってやってもいい。はべらす女は多いに越したことがない。
「アンタいくらだ?」
わざと下世話な聞き方をし、背中を向けて佇む女の肩を掴んで……
やけに骨ばっている事に違和感を抱く。
「地獄の渡し賃ならキミの命と等価」
低い声が鼓膜をなでる。
男の声だ。
「罪から来る報酬は死です」
照準を覗いた神父が穏やかに囁く。
思考停止状態に陥ったカイルの背後で、後部座席の一人の頭が破裂する。
「な……」
血と肉片と灰色の脳髄を撒いて倒れた男。
「リックおいしっかりしろ……畜生死んでやがる誰だどこから撃たれた!?」
「馬鹿野郎頭をさげろ!」
車を捨てて逃走を企てた男の頭を弾丸が貫通、ドアを開け放った男が前傾、突っ伏す。
戦慄の惨状。
一方的な殺戮。
愕然と立ち尽くすカイルの股間が失禁による悪臭を放ち、歯の根がガチガチ鳴る。
逃げる?間に合わない。運転席に飛び付いてキーを回せば……
「無駄だよ」
振り返ったカイルは極限まで目を剥く。
彼の手を払った女が、同情と達観を沈めた眼差しでカイルを見詰めていた。首には鋭く尖った喉仏がある。女装した男だ。
カイルの足止めに回った弟子だ。
「先生は狙撃の天才だ。照準と肉眼、二重の夜目を研ぎ澄まし1マイル先からでも標的を仕留める。夜梟の通り名の由来さ」
神父は淡々と引鉄を引いて狙撃をこなす。
闇夜に翻る猛禽の鉤爪さながら上空から音速で飛来した弾丸が脳天を貫き、悪党どもを一発で仕留めていく。
「君は一番最後だ。十分に悔い改めて、苦しんで死ぬんだね」
一瞬の死では生ぬるい。
神父はアメリア・オースティンの復讐を代行した。
「-----っ!!」
顎関節が外れんばかりの断末魔が血泡で濁る。
神父はカイルの喉を撃ち抜いた。苦しみを長引かせた上で、確実に死に至らしめる為だ。
弾丸は頸動脈を抉っている。
標的を一掃し、きな臭い硝煙立ち込めるスナイパーライフルをおろした神父が無表情に宣告。
「汚い断末魔ですね」
照準の十字架に祈り、カソックの裾を靡かせ黙祷。
「懺悔と断罪を同時に行える。聖職と暗殺を兼ねた我が身に、これほどふさわしい道具はありません」
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