白い息を吐きながら

落としもの

　薄い茶色の外装のノートはとても丁寧に扱われていた様子で、これといった汚れや擦り切れはない。また外側から判断するに、持ち主を示すような記述や、どのような事柄について記録されたノートなのか一切の記載がなかった。

　ＡＲＣ-６８９は直ぐに、地下のメインコンピュータに通信し判断を仰いだ。
　このノートが図書館の物であれば、然るべき場所に戻すだけなのだが、かつてここを利用した人間の所有物であれば勝手に精査することはできない。メインコンピュータは数秒の計算ののち、ノートの内部に持ち主を示す記述が無いか確認するようにと返答した。

　雪景色の広がる窓辺に立ったＡＲＣ-６８９は、さっそくノートの表紙を捲ってみる。そこには、ややくすんだ青色に変色したインクで、「あなたのこと」と記された文字があった。