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果ての地
ノートの落とし主の名前によって、現在暮らしているシェルターの場所は直ぐに判明した。
判明はしたのだが、ARC-689がいた地点からは途方もなく遠く、徒歩以外の移動手段を持たない時代にあって、到着には更に数年を要した。
図書館にノートを落としたと思われる時より、半世紀が過ぎていたのである。
凍える雪の大地を掻き分け辿り着いた小さなシェルターは、まだ生きている人が暮らしているのかと疑わしくなるほど古く痛んでいた。そこには百人にも満たない人類が、細々と、肩を寄せ合っていたのである。
数年ぶりの来訪者に湧き立つ住人を置いて、ARC-689はノートの持ち主の面会を求めた。持ち主はまだ生存こそしていたのだが、老齢により足腰は弱り、自宅となるユニットより出ることはかなわないという。
ARC-689は直接会って手渡したい物があると強く要求し、持ち主の部屋へと訪れた。
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