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赤ペンのすべるおと
瞼の上でちらつくひかりに、睫毛を揺らす。
僕の視界に飛び込んできたのは、どこかで見た顔。
少しだけ考え込む。瞬きの隙間で、記憶を引っ張り出した。
“あ、もしかして、佐藤先生?”
それは、高校の時に生物を教えてくれていた佐藤先生だった。
「久しぶりだな、東条」
“先生も、お変わりなく”
にこりと笑った僕に向かって、先生はゆるり、と眉毛を下げる。
ああ、懐かしい。
先生はいつも、困っていないのに、こうして眉毛を下げて笑うのだ。
どんな時も、そっと、優しく笑うのだ。
その笑顔に、どれほど僕は助けられてきたのだろう。
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