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「今日はどんな髪型にしよう」
最新のアルバムジャケットのレディー・ガガみたいなのはどうだろう。後ろから来る人はみな、追い抜きざまに振り向くに違いない。
それか、いっそ短く切って品のあるパープルにして、久しぶりに会う友達を驚かそうか。
根元からは白髪が長く伸びてきていた。
行きつけの美容室にはこの二十年間、二ヶ月おきに通っていたが、最近は特に誰かに会う用事もなかったので三ヶ月ぶりだった。
ほったらかしになっていた頭髪に、小春日和の暖かな日光を浴びながら、いつもの美容室に向かった。
一人で店を切り盛りする美容師は、私より十歳ほど年上の、七十歳ぐらい。腕は確かだが、スタイリッシュで現代的な髪型というより、保守的な手入れのしやすい切り方をする人だ。
もっと若々しく見える髪型にしてもらいたいと思いながら、よそに変えるのも億劫で通い続けていた。
「美容室、変えたらどう? せっかく行ったのにそんな頭じゃねぇ」
娘は、私が髪をさわったことにすぐ気がつき、ケチをつけてくる。けなされるたびに「次は、別のところへいくわ」と言い続けてきた。
娘の言い様は、ぱっとしない髪型を受け入れ続ける私のことまで、馬鹿にしているようだった。
娘に「いいじゃん」と言わせたくて、今度こそ凝った髪型にしてもらおうと、美容室に行く前だけは意気込む。
だけど、年季の入った店内で、馴染みの美容師の前に頭を差し出すと、挑戦したい気持ちはどこかに消え去ってしまう。
そうして、二ヶ月前と寸分違わぬいつも通りの髪型に落ち着くのだった。
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