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3 一大決心
高級牛肉をふんだんに使った牛丼セットを食べ、さらにデザートにはお茶を使ったソフトクリームまでごちそうになってしまった。
でもって、今度は橘樹のトラックのルーフにお邪魔してタバコを吸っている。
「喫煙所にいなかったら、どうしようかと思ったぜ」
橘樹がやれやれと言わんばかりに言う。
「なんで喫煙所にいるってわかった?」
「ん? わからねーよ、そんなん。風呂上がりはタバコって決まってんだ。吸わねーと頭回んねーからな」
自分と同じ考えで思わず吹き出した。
「んだよ、そんなに笑うことねーじゃねえか」
「悪い悪い。いや、自分といっしょだなーってさ」
しばらく適当なことをだべった。短くなったタバコを灰皿に押しつけ、四本目を吸おうとしたときに、橘樹が急に真剣な顔になった。
「ウチに来ねーか。そんだけ資格を持ってんだ。今ウチは多方面からの仕事を請け負っててよ。人手が足りねーんだわ」
「橘樹のウチって運送屋なのか」
「おう。アタシで五代目だ」
「結構歴史あんのね」
「なっ、頼むよ。回送やっててゴールドなんてスゲーことだし、直本の腕を見込んでんだ。髪もよ、今みてーにパープルのインナーカラーのままでいいからよ」
「でもさ、奈良よりの和歌山の市内に今も住んでんだよね。橘樹のとこは神奈川だろ? そっちに行くにしても金が――」
「金なら出す、いくらでも。ちゃんと寮もあるぞ。最低でも八帖以上の一人部屋だ。それによ、レンタカー回送なんて金にならんだろ。デカい物を運んでさ、デカく稼ごうじゃねえか」
初対面の奴にここまで言えるのがすごい。こっちも初対面の奴を信じていいのかどうか迷っている。どうすっかなーと迷う。
「ちなみに経験はあるか?」
「ある。一年ぐらい働いたかな。社長がクソッタレを極めた奴でさ。金に汚くて、コネで雇ったバカの運行管理が杜撰だから辞めたんだ。あんなん続けてたら過労死するってーの」
「よし、決まりだな。親父に連絡する」
「ちょっ、ちょっと待て! まだ自分は――」
不意に奢ってもらった牛丼を思い出した。そういえば、自分は免許証を拾ってもらったお礼をしていなかった。免許証がなければ運転はできないし、仕事にならない。命と金の次に大事な物だ。言わば命の恩人といっても過言ではない。
タバコを消して、深呼吸をする。
これも何かの縁だ。地元を飛び出して働いてみるか。橘樹も見た目が悪そうなだけで、中身は悪魔どころか天使に近いものを感じるし。面倒見のいい姉御肌っぽいのも好感が持てるし。
橘樹に自分の人生を預けてもいいか。もしダメだったら、辞めればいいんだしさ。
「橘樹」
「なんだよ改まって」
「親父さんに言ってくれ『身を粉にして働く』ってな」
言った瞬間、
「マジか!? 嬉しいぜ!!」
背骨にヒビが入ったような痛みが走った。
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