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了解しました、という定型文で僕は通話を切った。よろしく、という機械音じみた声が、まだ頭にひっかかっている。
「了解しません」と言ったらどう返すのだろう。
僕は暑さのせいか、妙な好奇心を膨らませた。きっとそれでも「よろしく」なのだろうけど。
夏の汗ばんだ肌の跡が、皮脂となって携帯画面にべったり付着している。服の袖で心持ち拭き取ったのち、上着のポケットに突っ込んだ。
僕はそのまま、指定された病院へ向かう。
金が勿体ないので、タクシーで片道10分の道のりを30分かけて行く。そんな僕を、ある同僚はみみっちいと容赦なく笑うが、みみっちくて何が悪いのだろう。浮いたお金で長崎県産の甘ったるいカステラを買うと僕は心に決めているのだ。
平日の真昼間だった。人影はまばらで、日中の日差しはただ僕のためだけにあるようなものだった。
全てのものが光を反射して曖昧な輪郭で揺らいでいて、そのゆらゆらに呼応したのか、僕の歩きも頼りない。歩きながら寝てしまいそうな陽気である。
病院までには橋が二つ架かっていた。川の水面の光が、縮れたり真っ白に瞬いたりして、絶え間なく震えている。遊具の少ない小さな公園からは、親子連れがブランコで戯れているのが見えた。
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