株式会社アイタイ

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僕は新卒採用だったが、同僚の中にはどこぞの企業から引き抜かれたなどという後輩もいた。 よくこっちを選んだなと思わず失笑すると、 僕はこの仕事が好きです。 と真面目な顔をされたため黙って缶コーヒーを飲み干した覚えがある。名の知れた大企業の仕事よりもこっちがいいとは物好きなものである。 周りのビル比率が高まるにつれ、携帯の地図を確認する回数が増えてきた。 無機質な建物が全部一緒に見える僕としては、採用基準の欄に「方向音痴でないこと」という項目を加えてほしかったと思うことしばしばである。そう書かれてあれば、きっと就職候補にも挙がらなかったろうに。 同じ角を2度曲がり、同じ喫茶店の窓際に座る老人と3回目があった後、ようやく目当ての病院へと辿り着いた。 思ったより大病院で、駐車場も広い。 平日の昼間ではあるが、車の数は少なくなかった。その事実が、常に死を包括している場所としての雰囲気をさらに際立たせる。 この仕事をしていると、到着地が病院であることは多い。 つまり依頼人は個人差はあれど命の危険にさらされている可能性が高く、こちらもそれなりの心積もりで病室のドアを開ける必要があるのである。
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