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こどもたちのパレード 4
「……おい、マナブ、マナブじゃないか?」
そのこどもたちの列から、ひとりが少年に近づいてきた。
少年が視線を向けると、そこにいたのは小学校のクラスメイトのコウジで、ふたりは目を合わせるなり自然と微笑み、頷き合った。コウジの瞳にはパレードの景色が映り、その顔は笑みで固定されていた。
「……きれいだねえ。コウジ」
「……そうだな。本当にきれいだ。ここに、来てよかったよ」
「コウジも、光を追ってここに来たの?」
「ああ、そうだよ。追ってたら、いつの間にか辿り着いてたんだ」
歌声と音楽は車や人の代替に大通りを流れ、光の奔流が、こどもたちの顔を優しく照らしている。
その歩みを邪魔しないように歩道へと戻ったふたりは肩を並べ合い、熱狂するまわりのこどもたちと一緒に、パレードを見守った。
衰えを知らない行進は目まぐるしく歌とダンスを変えつつも一定の速度で歩行し、歩道の小さな観客たちは声をからしながらも声援を送り、体をゆらしている。
明るい大通りは幼く純粋な興奮に満ちあふれ、周囲の闇はパレードによって、存在も許されないように駆逐されていた。
そうして、大勢の観客たちは光と音の饗宴をしばらく眺めていたが、そのうちに、変化が起きた。パレードの痕跡に、変化が生じていた。
「……あっ、あれ!」
思わず、少年が叫ぶ。
見れば多くのキャラクターを乗せた車から、輝かんばかりの光がこぼれ落ちはじめていた。光は物質のようで、音を立てて転がるとパレードの進路を表すように少しずつ道路を埋めていき、大通りをさらに強く照らしていった。
キャラクターが踊るたびに、光。歌声が響くたびに、光。
あまりの幻想的な光景に、少年とコウジは言葉を失っていた。夢のような景色が、目の前には広がっていた。その時だった。
ひとりのこどもが、車道に飛び出すのを、少年は見た。こどもはパレードの後方に走り寄ると屈みこみ、潮干狩りをするような仕草をしていた。光を、手のひらいっぱいに集めようとしているのだった。
その様を見ていたこどもたちも、一斉に歓声をあげ、車道に躍り出た。パレードから無限に湧きだす光を求め、小さな観客たちは腰を曲げ、あるいは膝をつき、光を手中に収めはじめた。その間も、音楽と踊りはにぎやかに展開され続けていた。
「……マナブ!」
「……うん、ぼくたちも!」
こどもたちの楽しげな様子に、ふたりも車道に身を乗りだし、急いで光を拾いはじめた。手に取ると、光はあたたかく、お湯に手のひらを浸したかのようだった。優しいぬくもりに少年の心には安堵が広がっていき、見ればコウジも、満足げに表情を緩めていた。
「……楽しいねえ、コウジ」
「……ああ、楽しいな。すごいなあ、このパレードは。なんて、幸せな日なんだろうなあ」
足を止めている観客たちを尻目に、豪華絢爛のパレードは徐々に徐々に遠のきはじめていた。しかし溢れでる光はとどまることを知らず、ふたりとこどもたちは争うこともなく光を共有し合い、幸福なぬくもりに浸った。自然と、心が解き放たれていくのを少年は感じた。
それは、コウジも同様だったのだろう。ポツリと、少年の耳に言葉が届く。
「……マナブ、あのさ」
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