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こどもたちのパレード 5
注意を引かれた少年は道路から目を離し、コウジに視線を向ける。その顔には笑みがありつつも、声には隠しきれない悲しみが含まれているようだった。
「……オレさ、最近、元気なかったんだ。やってる野球、結果がでなくて。監督には怒られて、親には、もっとがんばれって言われて。それで、夜も眠れなくて、なにもかも、嫌になって、だから――」
――だから、死にたいと、思ってたんだよ。
一時の静寂が、ふたりの間に流れる。
パレードは少しずつ遠のいていき、音楽も徐々に小さくなりつつあった。
心配そうに、目線を送る少年。
その顔に、コウジが微笑みながら続ける。
「――でもさ、でも、このパレード見て、この光を手にしたらさ、なんかどうでもよくなった。すっごく、楽しくてさ。ずっとここにいたい、ここからでたくない……そう思えて、悩みなんか全部、バカらしくなった。たぶん、このパレードのおかげだと思う。本当に、ここに来てよかったと思うよ」
「……実は、ぼくも。ぼくも、コウジと一緒だった」
コウジの告白を聞き、少年も言葉を漏らす。
「ぼくさ、だれにも言ってなかったけど、陰で、いじめられててさ。毎日毎日、学校に行くのがいやで、どうしようもなくて。コウジと一緒で、死にたいって、思ってた」
優しげな視線を向け、コウジは無言で聞いている。
手のひらのぬくもりを支えに、少年は感情を紡いでいく。
「……でも、このパレード見てたら、すごく元気が湧いて、すごく、うれしくなった。この光に触れるだけで、心が、透明になった気がしたんだ。本当に、あたたかい気持ちになれたんだよ」
「そうだよな。心が、軽くなった。全然、怖さなんてなくなった」
「うん、救われた気分なんだ。ここにいれば、なにもいやじゃない。いじめっこも、助けてくれない先生も、ここにはだれもいない。ずっと、ここにいたいな。もう、学校なんて、行きたくないな」
「……そうだな。もう、いいよな。ずっと、ここにいるのもいいかもしれないな。そうしよう。ここで楽しく、光を集めて過ごそうか」
「いいね、それがいいね。じゃあ、競争だ。どっちが多く、光を集められるか競争!――」
――ふたりの後方。視野の外。
いつしか、パレードの通過した跡地からは徐々に光が失われ、こどもたちも姿を消していた。闇がふたたび大通りを覆いはじめ、絢爛の世界は失われつつあった。
ふたりはそうした変化に気づかず、笑顔であたたかい光を幸せに集め続け、
――そして、他のこどもたちと同様、静かに闇へと飲みこまれていった。
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