12人が本棚に入れています
本棚に追加
こどもたちのパレード 6
■
喧騒の遠い、小学校の校舎裏。
そこで三人の少年がひとりの小柄な少年を囲み、ニヤニヤと意地悪く笑っていた。
壁際の少年はよわよわしく体を震わせ、ズボンの裾を、指が白くなるまで握り続けていた。
震える少年。三人のなかの、ひとりが言う。
「マナブくんさあ。なんで、学校来てんの? お前いるとさあ、ベンキョーする気なくなっちゃうんだよね、おれたち」
その態度は嘲りの色を隠さないもので、追従する他のふたりも同様に口角を上げ、校舎に背をつける体を包囲し、支配感に酔いしれていた。反撃など、考えてもいなかった。
――そのために、気づくことができなかった。
影に隠れ、うかがい知れなかった瞳。
その瞳に意思を感じさせる、確かな強い光が宿っていたことを。
手のひらに覚えているぬくもりに、力を貰っていたことを。
リーダー格が手を伸ばし、少年のランドセルを奪おうとする。
「じゃあ、罰ゲームね。言うこと聞かなかったマナブくんから、なにか、もらうことにしまーす」
それを、バシン、とはじく手があった。
唐突な反抗に、三人が目を丸くする。
その顔に、力強い、勇気のこもった声がぶつけられた。
「…………ろよ」
「…………え?」
「……やめろって、言ってるんだよ!」
「――――!」
■
「…………」
時の経過した、校舎裏。
校舎からかいま見える青空を眺めつつ、少年は息をはいた。
突然の抵抗に、実は気の弱い三人はもごもごとなにかを言って逃げ去り、後には少年が残されていた。少年の、勇気が残されていた。
すべてを包みこむような、美しい青空。
心の片すみに残っている、どこかで見た、あたたかい光。
なぜか、感謝を告げるべきとの思いが唐突にあふれた。
少年はどこかに向かい、ありがとう、と小さくつぶやいた。
その言葉は校舎裏の空気にまぎれ、薄く小さく、溶けていった。
校舎の向こうで、カキン、と大きな良い音がした。
高々と空を飛んでいく白球が、少年には見えた気がした。
最初のコメントを投稿しよう!